【市議会だより その5】 東山いこいの森をめぐる2つの論点と、その解決方法について
勝山市にあるキャンプ場「東山いこいの森」の利活用が勝山市議会で検討されています。市議会としては、東山いこいの森の廃止までを視野に入れた議論を進めています。
この市議会の議論を要約すると、争点は次の2つに要約されます。
①将来的な利用増の見通し
②将来的な金銭的・人的な負担増にどのように対応するか
この2つの争点をどのように解消するのか。その前に、東山いこいの森の現状とこれまでの議論の経過を見てみましょう。
■施設の概要について
東山いこいの森(詳細はリンク先を)は、おおよそ35年前の昭和55年4月1日から供用を開始しました。
利用者は、
昭和59年度 9595人
平成元年度 20916人
平成6年度 15169人
平成11年度 13342人
平成16年度 8141人
平成21年度 3199人
平成22年度 2559人
平成23年度 2298人
平成24年度 2759人
平成25年度 2747人
と、平成元年度の2万人をピークとして、現在では3000人弱を推移しています。
この施設の管理人は、その道では有名な方で、実に親切なおもてなしをしていただいています。
詳しくは、「東山いこいの森仙人」ブログ
■発 端
市議会における議論の発端は、指定管理者選定のときに始まりました。
平成21年度からこの施設は指定管理者制度を導入し、「谷を愛する会」が管理を行ってきました。これは、東山をよく知る地元の人々に指定管理を行ってもらうという趣旨も含まれています。
5年の指定管理期間が終了したため、平成26年度に改めて指定管理者を公募したところ、応募者が現れませんでした。ここから議論がスタートします。
議会内では「あまりにも指定管理料が低額である」といった声が多数を占めるに至ります。指定管理制度はコストを下げながらサービスを上げることを目的とはするものの、あまりにもコストを下げ過ぎると、そもそも勤労者の意欲が続かない。「東山の仙人」と呼ばれる管理人さんは献身的に働いてくれるものの、それに見合った十分な対価を支払うべきではないかという意見が出たのです。
そして、本年3月定例会において、理事者から「東山いこいの森に、五右衛門風呂と野外の雨除け施設を作りたい」との予算上程がありました。金額は2つあわせて2000万円弱。
これが国の補正予算を使って、国庫補助を得ての事業だというところが決定的でした。
「国の補助をもらうんだから、安上がりになっていいんじゃないの?」
と思われる方もいらっしゃるでしょうが、我々はそうは考えません。
「国の補助金をもらったら、最低15年はこの施設に金をつぎ込み続けなければならない」
と考えるのです。
補助金を得た以上、中途で事業を投げ出すわけにはいきません。国庫補助をもらって建てた建造物は、ある一定の期間は譲渡することも使用目的を変更することも原則できないのと同じです。つまり、「縛り」が出てしまうのです。
この縛りが発生したときに、市議会の中でひとつの懸念が発生しました。
「将来的にずるずると予算をつぎ込む施設になるのではなかろうか?」
■争 点
冒頭にあげた争点をもう一度繰り返します
①将来的な利用増の見通し
②将来的な金銭的・人的な負担増にどのように対応するか
東山いこいの森の存続・利活用を考える際には金銭的負担もさることながら、「地元・北谷町の人々の人的負担」も考慮に入れる必要があります。
同施設は北谷町の皆さんに管理・運営をお願いしてきました。北谷町の人々の雇用、そしてなによりも地元の施設を愛する人々の「生活のハリ」「生きがい」を大切にしなければならない。これは市議会内部の共通した意見です。
同時に、冷徹な現実も考えねばなりません。それは
「いつまで北谷町の人々が施設管理をできるのだろうか」
「10年後20年後に施設管理が北谷町の人々の重荷になるのではないか」
92世帯、総人口142人(平成24年度)であり、高齢世帯が増えた北谷町の負担も視野に入れなければならないのです。
争点となっている
①勝山市の将来的財政負担の有無
②地元の人々の将来的な人的負担
を組み合わせると、次のマトリックスのようになります。ここでそれぞれのエリアでどのように将来的な利用増を見込めるのか。これについて考えてみましょう。
ただし、ここで言う「財政的負担がない」とは「全く金をかけなくても良い」という意味ではありません。市の施設である以上維持費用は求められるのであり、「維持費用以上の金銭的負担はいらない。新規投資は第三者が行う」という意味でとらえてください。
【エリアⅠ】
勝山市が東山いこいの森をリニューアルして、地元の人々が指定管理で運営する手法です。市が想定しているのはこの手法でしょう。
【エリアⅡ】
市以外の第三者が施設整備を行い、これを地元の人々が指定管理するという手法です。この手法は、市財政にとっては最もありがたいのですが、最大の課題は「誰が施設整備を行ってくれるのか」という点にあります。年間利用者が3000人に満たない同施設に魅力を感じるディベロッパーは少ないでしょう。
ただ、「東山いこいの森」の区画を貸し出す等の「オーナーシップ制」で市外から個人を呼び込む等の手法は有効と考えます。ツリーハウスを作りたい、自分の山小屋を持ちたいという潜在的ニーズを掘り起こすことが求められます。
【エリアⅢ】
勝山市がリニューアルして、地元以外の第三者に管理を委託する方法です。これは、今まで献身的に施設管理を行っていただいた地元の人々を、いわば「裏切る」行為であり想定外です。
【エリアⅣ】
勝山市はなにもしない。地元の人々も負担は増えない。つまり、現状のままでこれからも進むということです。これも想定外です。
実質的に【エリアⅠ】および【エリアⅡ】が候補となるのでしょう。
ここに、「将来的な利用者の増加」という観点が加わります。この観点からは、【エリアⅡ】が望ましいのでしょうが、問題は東山いこいの森の認知をそこまで高めることができるか否かにあります。
■私 案
東山いこいの森をどのように今後展開していくのか。この議論には、
①施設利用者のターゲットを明確にする
②施設の外部要因を明確にする
この2点を欠かすことができません。
そして、最終の目標は
【A】施設の利用者を増やす
【B】地元の人々の雇用とやりがいを確保する
ことにあるのならば、まったく別の手法と経路を講じることを考えるべきです。
具体的には、
(1)施設のあり方は、ひとまず棚上げしておく
(2)利用者増をまず図る
(3)その後の展開は地元の人々に考えてもらう
この3点で進むことを提案します。
まずは、「②施設の外部要因を明確にする」ことから始めましょう。
勝山には年間70万人の来客者がある県立恐竜博物館があります。これが外部要因としては最大のものでしょう。ならば、この恐竜博物館と連携を図りながら東山いこいの森への誘客を図る方法が最も手早い。
つまり、東山いこいの森を「県立恐竜博物館の宿泊施設」として位置づけてしまうことです(①施設利用者のターゲットを明確にする)
東山いこいの森のHPをご覧いただければわかるように、家族でコテージを借りて3500円との料金設定は魅力です。加えて、権利恐竜博物館での化石発掘体験の無料券を配布し、お好みの時間帯を予約でき優先的に体験できる……等の連携策を採ります。
「自然体験ができて、安く宿泊できて、恐竜博物館の化石発掘体験は無料で優先的にできる」といった連携策を強化するのです。
夏休みに恐竜博物館を訪れる観光客は約20万人。このうち、宿泊を予定していない県内客、並びに帰省客を合算して10万人程度と仮定し、残りの「圏外から恐竜博物館を訪れ、県内で宿泊する人々」を10万人と仮定します。この人々のうち、5%が東山いこいの森を利用するとするならば、それだけで5000人の集客が見込めることでしょう。
(余談ですが、こういった基礎数字を仮定しなければならないところが、恐竜博物館をめぐるマーケティングの弱さです。やはり、早急に恐竜博物館の来館者に関する実態調査を行うべきしょう)
「県立恐竜博物館の宿泊施設で自然体験もできます」との位置づけを明確にして、県外からの誘客を強化し、前述した【A】施設の利用者を増やすを達成したならば、次は「指定管理料の大幅な増額」をすべきです。
本来的に指定管理とは、「維持費用などの必要経費は行政が負担します。そこから先は指定管理者が自分でお金を出してやってください。ただし、利益を上げたならば指定管理者のものにしてくださって結構です」という制度です。
ここで重要なことは、「行政が負担すべき必要経費」の中には施設のメンテナンスや改良も含まれるということです。老朽化した施設をリニューアルするのは行政の役割なのですが、通常の場合、これを民間に任せることはありません。
しかし、東山いこいの森に関しては、施設メンテナンスを地元の人々に任せるべきでしょう。どのようなコテージにするのか。どのような自然体験エリアにするのか。現場で顧客と相対してきた人々に任せるのが一番です。
予算規模として年間1000万円の増額を5年程度継続するくらいの規模を想定しても良いと、個人的には考えています。
地元の人々がこれまで果たしてきた献身的活動にはそれくらいの価値があります。
この増額規模の中で、地元の人々は創意工夫を凝らして東山いこいの森をリニューアルしていただけることでしょう。地元の人々が知恵を絞り、地元の人々が働き、地元にお金が落ちる。そのサイクルこそが、前述した【B】地元の人々の雇用とやる気を確保する、ことにつながるのです。
そういった活動を数年続けた後に、初めて前述のマトリックスの議論ができます。
「東山いこいの森を今後どうするのか?」
という議論ですね。
「東山いこいの森をリニューアルする。そうすれば、利用者は増加する」という論法ではなく、「現在、我々が持っているリソースで東山いこいの森の利用者を増加させる。その上で、今後の大きな戦略を考える」という論法です。