恐竜博物館がある長尾山総合公園をプロデュースしよう 《前編》
今回から、《前編》《中編》《後編》の3回に分けて、恐竜博物館がある長尾山総合公園のお話します。
具体的には、長尾山総合公園を、どのようにプロデュースしようか!という内容です。
「プロデュース」とは、「テーマを決めて価値を創造し、発信する」という意味で使っております。
ー長尾山総合公園に、何か問題でもあるの?-
県立恐竜博物館は、ぐんぐん来客数を伸ばしています。ちょうど1年前の今頃、年間来客者数が90万人を突破しました。おそらく、今年度は100万人を超えることでしょう。
ーでも、ディズニーランドやUSJと比べると、小さなもんでしょ?-
そう卑下するものではありません。
綜合ユニコムがとりまとめた「全国の主要レジャー・集客施設 入場者数ランキング2016」によると、確かにディズニーランドやUSJの入館者数は桁ハズレです。
ディズニーランド…………3000万人
USJ…………………………1400万人
でも、100万人の来館者というと、遊園地部門でいうならば、としま園とほぼ同じ入場者数です。
ミュージアム部門で比較しても、
【ミュージアム部門】
1位.金沢21世紀美術館………237万人
2位.国立新美術館……………229万人
3位.国立科学博物館…………222万人
4位.東京国立博物館…………199万人
5位.広島平和記念資料館……150万人
となっているので、いいところまでつけている。これは間違いないでしょう。
ところが、恐竜博物館がある長尾山総合公園。
画像で示すと、このような感じです。
この総合公園のプロデュースができていません。これをしっかりとしないと、勝山市の観光戦略など、様々な施策がチグハグな結果に陥ってしまいます。
「年間に100万人来ますよ」
「だったら、モノ売れば儲かりますね」
「だったら、飲食提供すれば儲かりますね」
といった単純な考え方では困るのです。
「この国道沿いは、年間400万人の交通量があります」
「だったら、モノ売れば儲かりますね」
「だったら、ラーメン屋開けば儲かりますね」
そんな商売する人、世の中にいません。確かに人の通らない場所に立地しても儲かるはずがない。だが、人の通るところなら確実に儲かるものでもない。それで儲かるなら世の中これほど楽なことはありませんよ。しかし、現在の長尾山のプロデュースは、これに近いものです。
われわれは長尾山総合公園を訪れる人々の誰に対して、どのような価値を、どのような方法で提供するのか。それをどのようなビジネスモデルに落とし込むか。それを明確にすべきです。
そして、もうひとつ確認しておきたいことは、県立恐竜博物館をプロデュースすることと長尾山をプロデュースすることは、全く異なるものだということです。
ーなにがちがうの?-
有名観光地を考えていただければ、分かっていただけると思います。
例えば、近場で言うならば永平寺。道元禅師が開山した有名な古刹です。この永平寺は「お寺としての永平寺」として単体で存在します。
そして、永平寺には門前町があります。飲食する場所、宿泊する場所、お土産物を売っている場所。そういったものが含まれる。
お寺のことはお寺にお任せする。そして、自治体や企業、商店主、住民の皆さんが考えるのは門前町です。ここをどうプロデュースするかを考える。
「お寺としての永平寺」を恐竜博物館、「永平寺の門前町」を長尾山総合公園と対照させればおわかりでしょう。県立恐竜博物館のことは、福井県に任せておく。われわれは、恐竜博物館に来館する年間100万人の人々を、長尾山総合公園でどのように楽しんでもらうのか。そして、どのようにしてビジネスにつなげていくのか。これらの点をプロデュースするのです。
上記の点を踏まえたうえで、まずは県立恐竜博物館について考えてみましょう。
そもそも恐竜博物館に訪れる人々は、どのような人々でしょうか。
■対象はファミリー層
ー客層見てると、ファミリー層じゃないの?-
そう、ファミリー層です。平成24年に恐竜博物館がとったアンケートを見ても、来館者の構成は、圧倒的にファミリー層になっていて、その比率は実に73%にものぼります。
平成24年度恐竜博物館調査結果
【来館者の構成】
1人で来た……………………3.9%
家族・親戚と来た…………73.6%
友人・知人と来た……………9.2%
学校で来た……………………4.0%
職場で来た……………………1.6%
旅行会社のツアーで来た……2.7%
その他…………………………3.6%
無回答…………………………2.0%
それじゃ、ファミリー層をターゲットにしましょう。
ー「学校で来る」とか「旅行会社のツアーで来る」とか、そういった人たちを伸ばさなくていいの?-
ほら、もうズレてる。県立恐竜博物館に来る人々を多様化させよう!具体的には修学旅行で来る学生を増やそうとか、旅行会社のツアーを増やそうとか……そういったことは福井県が考えることなのです。さっき言ったばかりでしょう。
われわれには無尽蔵の資源はありません。人的・物的・予算的に限られた資本を用いるときに、「あれもこれも」と手を広げることは危険なのです。
恐竜博物館の来館者の73%はファミリー層です。
であるならば、長尾山総合公園のプロデュースはファミリー層をターゲットにすべきです。
そこでですね。
ファミリー層が望むことは何でしょうね。
■ファミリー層のインサイトを衝け
ーそりゃ、子供を喜ばせることでしょうー
そう、それが基本です。ただ、財布を握ってるのは誰ですかという発想は必要です。基本的に子供に決定権はない。子供が駄々をこねても親が「それはダメ」と言えば、それで終わり。
親の二つの欲求、つまり「子供を喜ばせたい」との欲求と「あそこへ行ってみたい」との欲求を満たさなければなりません。
その点に関して成功したのは、キッザニアでしょう。
職業体験というのは、子供にとってはリアルなおままごとです。子供は楽しい。そして、親も「職業体験や知育は、子供のためになる」と動機づけができる。親に「あそこへ行かせてみたい」と思わせることに成功している。
そして、何よりも、親が楽ができる。
同伴保護者は、保護者ラウンジで子供たちを見ているのがルールです。子供たちが遊んでいるのを眺めている。
ーそれは重要なの?-
これはね。無視できない要素ですよ。
子供を遊ばせたい、楽しませてあげたい。これは親としての願いです。ただ、休日に「どこかへ連れて行って」と子供にせがまれると、「たまの休日くらいは休ませてくれ」と言いたくなるときもある。
ー切実な話だ(笑)ー
中でも一番疲れるのは、次にどこへ連れて行かなければならないかを考えること。
恐竜博物館へ行く。でも、恐竜博物館で半日は潰せない。すると、次はどこへ行こうかという話になる。ぐるぐると色々なところを車を運転して移動する。
これは疲れますよ。
半日、腰を落ち着けて時間を費やすことができる。そんな場所があるといいですよね。
以前だったら、百貨店・デパートがこのビジネスモデルでした。まだ、モノがいきわたらなかった高度経済成長期には、百貨店・デパートというのは「あこがれのモノが置いてある」華やかな場所でした。そこをブラリと歩きながら、最上階のレストランで食事をする。子供たちを屋上の遊具やウルトラマンショーなどで楽しませる。
半日、時間を費やすモデルになっていたわけです。
ところが、今はそういった場所がない。
親のインサイトをつかないといけません。そして、「子供の面倒みるのは大変でしょ?」という提案は十分にインサイトになりうるものです。
ーインサイト?-
インサイトとは消費者ニーズよりも更に深く掘り下げた感情です。USJのマーケティングを担当し、売り上げを急激に伸ばした森岡毅氏によると、消費者インサイトは「消費者の隠された真実」を指すものです。指摘されてみて平気で「そうだよ」なんて消費者に反応されるものはインサイトではありません。「いや、そんなことはないよ!」と拒否してみたくなったり、考えるのが嫌だからできるだけ考えないようにしているものがインサイトです。
森岡氏が手掛けたインサイトの例として、USJのクリスマスイベントのCMがあります。下記の動画を見ると、確かに2010年(3)からCMの方向性が2方向に分かれています。
【冬らCM】☆USJ クリスマス限定CM 特集☆【X'mas限定】
ひとつは正攻法のCM。「こんなに素晴らしいクリスマスイベントやりますよ」というもの。
もうひとつは、「こんな素晴らしいクリスマスイベントを、お子様と過ごせる時間は限られていますよ」というもの。
明らかに後者は、親に向けてのメッセージです。
森岡毅氏の発言をそのまま引用しましょう。
この時に衝くことにしたインサイトは親の切ない深層心理をエグるものです。これを奇麗な言葉で表現すると、「子供と本気で楽しめるクリスマスはあと何回もない」というものです。
もっとわかりやすく表現すると「あなたのまだあどけなくてかわいい娘はすぐに大きくなって、クリスマスなんてあなたと一緒に過ごしたがらなくなります。すぐにクリスマスイブは帰ってこなくなって、ホテルで彼氏と過ごすようになりますよ。だってお母さん、あなたも身に覚えがあるでしょう?」というもの。
これをそのまま露骨にするとさすがに世の中に避難されますから、我々はそのインサイトをこのようなコピーに変換して切ないパパの目線のナレーションで語りました。
「いつか君が大きくなってクリスマスの魔法が解けてしまうまでに、あと何回こんなクリスマスが過ごせるかな……」と。
(『USJを劇的に変えたたった1つの考え方』森岡毅著 p158)
これがインサイトを衝くということです。
さて、ファミリー層のインサイトに話を戻しましょう。
「子供の面倒をみるのは大変ですよね」
これは立派なインサイトです。
類似でいうなら、ご家庭の主婦が「たまには温泉で羽を伸ばしたい」というニーズ。そのニーズの底に隠れているインサイトに似ています。
奥様は食事をつくる、洗濯から何から何までする。もちろん、奥様方はそれを嫌がってはいない。家族のためにがんばっています。でも、「たまには、食事をつくることや家事全般から離れてのんびりと過ごしたい」との思いはあるでしょう。
「家族の面倒をみるのは嫌ですか」
と聞かれれば、そんなことはない!と奥様方は否定するでしょう。しかし、「たまには家事から自由になってのんびりと過ごしたい」とのインサイトがある。
こういった主婦向けのインサイトを狙ったビジネスモデルは、かなり出てきていますよね。
ー例えば?-
ベネッセが出版している「サンキュ!」という雑誌。これを見ていると、なるほどと思います。他にもESSEであったりLeeであったり、家庭画報やSTORYなどを見ていれば、おのずと見えてきます。
思うに、女性には根本的なインサイトがあるような気がします。
「この人と結婚してなかったら、私はどんな人生を歩んでいたのだろうか」
今の旦那に格別不満もない、子供たちもすくすくと育っている。今の生活に不満は特別ないのだけれど、あのとき別な選択をしたなら、私の人生はどうなっていたんだろう……男はあんまり考えない発想です。
この話は色々と面白い論点を多く含むのですが、今の議論との関連性が薄いので、また今度にしましょう。
話を戻しますと、
「子供の面倒みるのは疲れるでしょう?」
も同様にインサイトになりうるのです。
子供を楽しませたい。遊びに連れていきたい。しかし、それは疲れることだ。
できれば、腰を落ち着けて子供たちがどっぷりと遊べる場所が欲しい。あちこちと動き回るのは疲れる。
だったら、そのインサイトを衝きましょう。
「子供を遊ばせたいとの親の思いをかなえます」
「でも、『あそこへ行きたい』『次はここへ』という、子供に振り回されるのもゴメンこうむるでしょう?」
「できることなら、腰を落ち着けて半日ゆっくりと、ひとつの場所で子供が満喫できるような場所があればいいのに……そんなあなたの要望におこたえします」
ー「半日」とはどの程度の時間なの?-
おおよそ、4時間から5時間の時間を過ごす場所と考えていただきたい。
それだけの時間を過ごすことになれば、当然に食事の時間も含むことになります。
ーなるほど、話を続けてー
ところが、福井県内で、半日、腰を落ち着けて時間を費やすことのできる場所は、私の考えるところでは1か所しかありません。
ー三国競艇場?-
それは大人が半日過ごす場所。しかも、半日過ごせるかどうかも怪しい。1レース目でお帰りいただく羽目になるかもしれません。
冗談はさておき、ファミリーが、半日、腰を落ち着けて時間を費やすことのできる場所は、県内では唯一「芝政ワールド」だけです。
しかし、芝政ワールドは有料です。
「半日どころか1日過ごせることはわかってる。でも、おいそれと行ける場所ではない」と親が感じる場所です。年に1回行くか行かないか。そういった場所ですね。
つまり、芝政ワールドは
「ある程度の金額を払うけれども」
「家族で1日腰を落ち着けて遊べる場」
なのです。
県内には子供を遊ばせる場所は多々あります。しかし、たいてい子供は2時間もすれば飽きてしまう。半日腰を落ちづけて遊べる場はありません。
だから、カテゴリーとしては美味しいカテゴリーなのです。長尾山総合公園が
「低料金で」
「家族で半日腰を落ち着けて遊べる場」
というカテゴリーを打ち出したならば、福井県内に競合はいませんから。
■顧客を絞り込め
ーそれじゃ、その方向で行くの?-
いや、その前に「誰をターゲットとするのか」という問題を考えねばなりません。
ーターゲットは、ファミリー層でしょ?-
ファミリー層をターゲットにすることは当然です。
問題は、「どこのファミリー層をターゲットとするのですか?」ということ。われわれの顧客はどこにいるのですか?という問題です。
だって、県立恐竜博物館には県内外から多くのお客様が来館します。その来館者のだれをターゲットとするのですか?
それによって話はガラリと変わってきます。
例えば、東京から県立恐竜博物館へ来る人がいます。この人たちは、旅行です。「旅行」と「半日腰を落ち着けて遊べる場」は結びつかない。
ーそういうもの?-
あなたが子供にせがまれて東京ディズニーランドへ行ったとしましょう。せっかく東京へ行くのだから、ディズニーランド以外にも見たいものはある。別に、腰を落ち着けて船橋市を見て回ろうとは思わないはず。「次は東京スカイツリーを見に行こう」「その後は秋葉原へ行こう」と、色々な場所へ移動するでしょう。
「旅行」は移動を基本とするものです。腰を落ち着けるものではない。したがって、東京から来るお客様をターゲットとするのは、意味がない。
「誰をターゲットとするのか」という話の中で、「それじゃ東京から来るお客様をターゲットにしよう」とすると、長尾山総合公園のプロデュースはチグハグなものになってしまうのです。
東京から来る人は県立恐竜博物館以外にも見たいところ、行きたい場所がある。ならば、長尾山総合公園に留まる動機がない。動機のない人たちに発信しても無駄です。
ーそれじゃ、東京でやっている恐竜博物館のPRは意味がない?-
だから、それは次元の違うお話だと申し上げたでしょう。
県立恐竜博物館のことは福井県がやることです。福井県が東京からの来館者を伸ばしたいのであれば、東京でPR活動をすることには十分に意味があるでしょう。
われわれは長尾山総合公園をプロデュースするのです。去年も今年も来館者の総数は100万人で変わりはない。しかし、東京から来る人々の比率が10%も増えた。そんなことは起こるはずがありません。もしも、東京からの来館者数が増えたならば、総来館者数は100万人から110万人になるだけのこと。
「われわれが長尾山総合公園をプロデュースする」とは、現在訪れている100万人の人々に対して、長尾山総合公園をどのように見せ、何を発信するのかということです。
福井県が東京で県立恐竜博物館をPRするのであれば、ぜひ頑張って成功させていただきたいと願うだけです。もちろん嫌味ではありません。正直な気持ちです。
勝山市がやるのであれば「税金の無駄だ」と言うでしょうが。
ーということは、結局どのエリアの人々がターゲットになるの?-
「半日、腰を落ち着けて子供たちを楽しませたい」との欲求に基づいて、「恐竜博物館に行って、半日、長尾山総合公園で遊んで、日帰りで帰るファミリー層」とターゲットを定めたのであれば、そのまま読み解けば良いのです。
「2時間かけて車で移動して、長尾山で半日過ごして2時間かけて帰る」
次の図をご覧ください。
車で2時間圏内だと、金沢、富山から岐阜、彦根、舞鶴というエリアになります。
車で3時間圏内だと、名古屋・京都・大阪という大市場をエリアに含むことができます。
われわれは、日々、恐竜博物館を訪れる県外ナンバーを見続けています。ですから、関西圏、北陸からお客様が来るというのは、感覚的にしっくりと来ます。
ところが、ここにひとつの見落としがある。
ーそれはなに?-
上の図を見てもわかるように、車で2時間圏の面積のほとんどを占めているのは、福井県です。そして、県立恐竜博物館の来館者数の地域別割合を見てください。
【平成24年度県立恐竜博物館の来館者の内訳】
富山県………3.86%
石川県………6.79%
愛知県……16.18%
岐阜県………5.90%
滋賀県………3.98%
京都府………6.43%
大阪府……11.41%
兵庫県………7.15%
福井県……12.41%
仮に総来館者数を100万人とするのであれば。愛知県から16万人。大阪府から11万人。福井県から12万人来ている計算になります。福井県のお客さんよりも愛知県のお客さんの方が多い。
ーということは、愛知県や大阪府から来る人をターゲットにするということ?ー
つい、そう考えてしまうでしょう?そこが間違いの素です。私だったら、絶対に愛知や大阪の人を長尾山総合公園のターゲットにしない。するとしても、二次的ターゲットにすることでしょう。
ーなんで?愛知の方が人が来るのでしょ?-
愛知県の人口が720万人。大阪府の人口が890万人。福井県の人口が80万人。720万人の人口の愛知県から16万人。890万人の大阪府から11万人。80万人の人口の福井県から12万人。
さて、県立恐竜博物館へ来る比率が高いのはどちらですか?
ーなるほど、そういうことかー
そう、福井県民の方が、県立恐竜博物館へ来るのです。当たり前の話です。地元なのだから。ところが、なぜか長尾山をプロデュースするとの話の流れになったとき、愛知や大阪やという話が出てくる。目の前に出現する愛知ナンバーや大阪ナンバーの車に惑わされてしまう。
われわれは県立恐竜博物館の入館者数を増やすことを目的にしていません。あくまでも長尾山総合公園のプロデュースを目的にしているのです。
先ほど述べたように、福井県内には、腰を落ち着けてファミリー層が半日を過ごす場はありません。これが市場環境です。そして、その市場環境は、われわれのブルーオーシャンですよ。
ブルーオーシャンとは、いまだ他の競合相手が存在しない未開拓市場を指します。競合相手がいなければ儲かるのは当然ですよね。
県内には、ファミリーが、半日、腰を落ち着けて楽しむことのできる場はない。消費者のインサイトを眺めれば、その需要は強い。そして、われわれは発信するコンセプトを「ファミリーが、半日、腰を落ち着けて楽しむことのできる場所」と定めた。
そうならば、われわれが真っ先にターゲットとすべきは、福井県民なのです。
ーでも……大阪や名古屋のお客さんを捨てるのはもったいないー
その気分はよくわかります。しかし、こう考えてみてください。
「長尾山総合公園のヘビーユーザーになりうる人は誰ですか」
愛知県から大阪府からお客様は県立恐竜博物館へ来る。これは、ありがたいことです。では、彼らは年に何回来るのですか?もう一度申しますが、人口80万人の福井県で、そのうち12万人が恐竜博物館を訪れている。
これは強烈なリピート率がなければ達成できない数字です。
愛知県から恐竜博物館に昨年も来た。今年も来た。そういうお客様もいらっしゃるでしょう。これも大切なリピーターです。
恐竜博物館が、こういった県外のリピーターをどのように遇するのか。これは県立恐竜博物館に考えていただきましょう。
われわれが考えるのは、県内にいる強烈なリピーターの人たちです。
ー先ほどから聞いてると、恐竜博物館との棲み分けを、えらく気にしているようだけど?-
何回も申しているように、県立恐竜博物館のことは博物館に、長尾山総合公園のことはわれわれで。これが基本スタンス。
これは、長尾山総合公園を伸ばしていく上で、譲れないラインです。
確かに県立恐竜博物館の来館者を、長尾山総合公園の入館者のベースとする。これは間違いところです。
しかし、それにもたれかかっていてはいけません。
ある施設に強烈な集客力がある。それで、その集客力を当てにして、多くの人々がビジネスを営み始める。ところが、その施設の集客力が下がったときに、何が起きますか?
共倒れです。
われわれは、長尾山総合公園をプロデュースしようとしています。そして、幸いなことに長尾山総合公園には、強烈な集客力を持つ県立恐竜博物館がある。その集客力をベースにして、長尾山総合公園をプロデュースするのは当然の理です。
しかし、われわれは県立恐竜博物館に依存はしない。
極端なことを言えば、「明日、県立恐竜博物館が火災でなくなったとしても、長尾山総合公園の死活問題にはならない」くらいの力を蓄えておくのです。
ー第2恐竜博物館のこともあるしねー
そう、その問題もあるのです。現在、第2恐竜博物館を福井県は建設しようとしています。これがどこに建設されるのか。これは勝山市にとっても重大な関心ごとです。
仮に……勝山市以外の場所に第2恐竜博物館が建設された場合、勝山市にある第1恐竜博物館の入館者数は増えるでしょうか、減るのでしょうか。
ー普通に考えれば減るでしょうねー
そう考えるのが普通でしょう。「相乗効果で増えるはずだ」などと主張する人は、考えてみれば良いのです。敦賀市に水族館を作って「三国にある松島水族館との相乗効果でお客が見込める」などと主張しないでしょう?競合施設は、食い合いを始めるのが普通ですから。
そういった不測の事態にも対応できるように、われわれは長尾山総合公園の魅力を高めておかなければなりません。
ー第2恐竜博物館が勝山に来たら?-
来たら来たで重畳でしょう。それだけのことです。
いずれにせよ、長尾山総合公園をプロデュースする意味は、恐竜博物館を尊重しながらも、それに全面依存しないこと。長尾山総合公園はそれ単体で生き延びることができるのだという方向性を明確にする点にあります。
県立恐竜博物館のことは県に任せておきなさい。われわれは長尾山総合公園に力を注ぐのです……と私が繰り返し述べるのも、ここに理由があるのです。
■顧客を囲い込め
次に考えるのは、顧客の長尾山総合公園内における滞在時間を延ばす方法です。
ー長尾山総合公園で、お客を囲い込むということー
「囲い込む」という表現は微妙なところですが、意図するところは間違ってはいません。
ー恐竜博物館から勝山市の中心市街地への誘客は?-
ああ、その問題ですか。
それを考えるのは止めましょう。
ーえ?いいの?-
だって、間違っていますから。
これまで勝山市は、恐竜博物館から中心市街地へ人を流そうとしました。
これは二つの点から間違っています。
ひとつは、商売の常道に外れている。
「お客は動かすな」が商売の常道です。なぜ商店街があるのか、それを考えてください。商店街へ行けば全てが揃うからです。ショッピングモールもそう。一度集めたお客様を動かしてはいけない。
県内で言えば、永平寺などがその典型例です。奥山深い場所に永平寺はあります。そこへ団体バスで乗り付ける。永平寺を参拝する。門前町で食事もする。お土産物も買う。何しろ団体バスで乗り付けるわけだから、観光客は他に行きようがありません。永平寺と門前町の中をぐるぐると歩くより他にない。
これは団体旅行を基本としてバスで高齢者が乗り付けるというビジネスモデルです。
かつては凄かったらしいですよ。永平寺観光物産協会の人に聞いたところによれば、
「朝、シャッターを開けたらお客さんが歩いてるのよ」
「だから何もしなくても儲かった」
ところが、このビジネスモデルが崩れ始めた。団体客がバスで乗り付けるというスタイルから個人観光客へシフトし始めたからです。
永平寺の門前市が採用したビジネスモデルは崩れつつあります。しかし、それが崩れ始めた理由は、団体旅行バスに依存したビジネスモデル。つまり、門前市に人を呼び込む手段と逃がさない手段が崩れたのです。顧客の飲食・買い物・宿泊を門前市だけで完結させるというビジネスモデルは未だに有効です。
「お客を動かしてはいけない」
「お客を囲い込んで逃げさせてはならない」
これは商売の常道なのです。
勝山市の理事者には何度も注意したんですけどね。
「永平寺の門前のビジネスモデルを参考にした方が良い」
ーなるほど、それでは「勝山市が犯した二つ目のミス」とはなに?-
自分勝手な理屈だということ。これまでのやり方は、観光客に対する押し売り以外のなにものでもありません。
非常に冷酷な言い方になるかもしれません。でも、取り繕ったところで何の益もありませんから申し上げます。
「中心市街地に、恐竜博物館に匹敵する観光魅力があるのですか?」
正確に私の意図を表現するために、こう言い換えましょうか。
「確かに中心市街地には魅力あふれる場所があります。ただ、恐竜博物館に匹敵する魅力として、それを磨いてきましたか?」
行政は「磨いてきました」というかもしれません。
磨いてきたのならば、もっと人が訪れてしかるべきなのです。
恐竜博物館へ来た来館者を中心市街地へ誘導する。それは中心市街地の魅力を今以上に高めてからのお話。少なくとも、当の勝山市民が楽しむことのできる場として中心市街地を活性化した後の話です。
常々申し上げているように、「地元の人間が楽しむことのできない場所に、観光客が来るはずがない」のです。中心市街地に地元の人間が来ないような場所に観光客を誘導するなどとは、夢物語でしかありません。
ーその話は長くなりそうだから、そこまでにしておきましょうか。それで、長尾山総合公園にファミリーを囲い込むためには?-
そうですね。
まず、真っ先にやらなければならないことは、長尾山総合公園に車の乗り入れを禁止することでしょうね。
ーえっ?-
長尾山総合公園に、車で入ってはいけない。少なくとも、ゴールデンウィークと夏休み期間は、それを徹底することです。
ー勝山市が、あれだけ駐車場を整備したというのに?-
確かに勝山市は営々と駐車場を整備し続けてきました。
もう一度、冒頭で出した画像を見てみましょう。
県立恐竜博物館の前に「1P」の表記があります。これは第一駐車場のこと。そのほかにも「2P」、「3P」、すなわち第二駐車場と第三駐車場の記載があります。これらは、来館者数の増加に対応するために勝山市が整備してきたものです。
私の記憶では、駐車台数の総数は2000台を超えるものだったはず。
ゴールデンウィークと夏休みの期間は、これを封鎖します。乗り入れ自体を禁止するのです。
ーなぜ?-
お客様のことを考えれば、当然だからです。
そして、これをしなければ長尾山総合公園のプロデュースも始まらない。
この続きは、《中編》で。