勝山市が長尾山総合公園で犯す致命的なミス
■勝山市が長尾山総合公園で犯す致命的なミス
福井新聞の報道によれば、9月15日の勝山市議会において、第二恐竜博物館誘致の目的で勝山市が次の方針を明らかにした。
①長尾山総合公園の駐車場の拡張を行う。
②長尾山総合公園へのアクセス道路整備を行う。
③温泉施設「水芭蕉」を恐竜をテーマにした施設に改修する。
④まちづくり観光株式会社の物販施設を県全体の観光案内拠点とする。
⑤上記の物販施設で、市内飲食店での昼食予約ができるようにする。
⑥恐竜博物館の入場券を活用した市内飲食店での割引サービスを行う。
長尾山総合公園とは、福井県立恐竜博物館が位置する勝山市の公園である。下記の図は、長尾山総合公園整備計画図であり、②のアクセス道路整備は、下図に赤点線で示されている道路を指すものと思われるが、勝山市の説明だと「黒原経由」を明言しているので、別なルートになることも予想される。
さて、勝山市が示した上記の方針は次の点で致命的な過ちを犯している。
ひとつは、長尾山総合公園の魅力を高める努力をしていない点。勝山市の方針は、どこまで行っても「県立恐竜博物館だのみ」である。単独施設にもたれかかった施策は、その施設の誘客力が途絶えた時点で終わる。県立恐竜博物館が抜群の誘客力を持つ今こそ、その誘客力を活かして長尾山総合公園の魅力を高め、公園自体での誘客力を確保すべき時期なのだ。「ヒット商品を生み出した時こそ、その利益を活かして次世代の製品を作れ」との民間企業の知恵に学ばねばならない。
ふたつめは、経済波及が全く見込めない点。9月14日の福井県議会では、興味深い議論がなされている。井ノ部県会議員が「福井県立恐竜博物館の経済波及効果は、勝山市で33億円しかない。年間90万人が集まる施設としては物足りない」と福井県に斬り込んだ。県として苦しい答弁を余儀なくされたようだが、これは県が気の毒だ。
というのも、福井県自身が勝山市の無策っぷりを腹ただしく思っているからだ。私が議員時代に県に行くと部課長から「いつになったら勝山市さんは金儲けてくれるんですかね」と、よく嫌味を言われた。議長時代には知事から直接苦言を呈されたこともある。昨年は、副知事に怒られた。「一体、勝山はどうなってるのか」と。
三つめは、勝山市民の存在がどこにもないことだ。長尾山総合公園は、市税を投入して整備する勝山市の公園である。観光客向けの整備をする必要性は認めるが、あくまでも「市民のための公園」なのだ。勝山市民が楽しめる工夫をすべきである。
この3つのミスに共通していることは、顧客のニーズを考慮していない点である。まさに、ここに尽きると言っても良い。
温泉センター「水芭蕉」を恐竜仕様にして、誰が喜ぶのか。風呂に入った観光客が「あら、こんなところにも恐竜が」と言うだけのことであって、それを目指して観光客が「水芭蕉」に来ると考えること自体、本末転倒であろう。
■顧客のニーズをつかめ
行政は、まずは「ダメなこと」から入りがちだ。あれは金がないからダメです。これは規制があるからダメです……といった具合に、とにかくできない理由を探すところから始まる。
逆に、政治は、まずは「理想の姿」を想い浮かべることから始まる。その上で、理想を実現する際に障害となる事柄をどのように乗り越えるのか、その点に工夫を重ねる。
(その姿勢がなければ、政治など只の権力闘争で終わる代物でしかない)
まずは、長尾山総合公園の「理想の姿」を想い浮かべる前に、現在の恐竜博物館へ来る観光客のことを想像してみよう。
あなたは県外から恐竜博物館へ車でやってくる。恐竜博物館へ辿り着くまで、渋滞を我慢しなければならない。延々と続く渋滞の中で、ようやく恐竜博物館へ辿り着いた。しかし、駐車場の空きはどこなのだろうか。後部座席の子供たちは、「早く恐竜博物館へ行きたい」と叫ぶし、助手席の妻はイライラしている。全くなんてところだ。
ようやく駐車場を探し当てたあなたたちは、今度は恐竜博物館の建物の前で並ばなければならない。入り口から続く行列。
やっと博物館に入ることができた。しかし、人込みの中は疲れる。1時間、2時間と子供たちと一緒に館内を歩いたあなたは、疲労困憊だ。ようやく子供たちも満足したらしく、博物館の外へ出た。目の前の駐車場は、とにかく車と人で一杯だ。休憩したくとも、その場所もない。軽食をとりたくても、目の前にある誘客拠点施設は人混みだ。
「こんな場所は一刻も早く脱出しなければ」
ならば、次のような長尾山総合公園はどうだろうか。
あなたは県外から恐竜博物館へやってきた。昨年と違うのは、今年は渋滞が全く起きていない。これはどうしたことだろうか。恐竜博物館の近くまで来ると、理由が分かった。今年は、長尾山総合公園への車の乗り入れは全面禁止になっているようだ。
シャトルバスが出ているようだ。シャトルバスが出ている個所は、勝山の中心市街地と越前大仏駐車場、平泉寺など数か所ある。あなたは平泉寺を選んだ。あなた自身、平泉寺に行ったことがないので、帰りに寄ってみようと思ったからだ。
シャトルバスに乗って、恐竜博物館前に着いた。あなたは、昨年と異なる光景を目にする。ひとつは恐竜博物館の入り口に人が並んでいないこと。そして、博物館前の駐車場スペースにケータリングが数十台並んでいるだけでなく、テントがずらりと張ってある。これはちょっとしたお祭り風景だ。
そして、博物館の反対側に目をやれば、子供が遊ぶことのできるアトラクション施設ができている。なるほど、ここで子供たちを遊ばすことができるから、博物館へ殺到することなく分散化ができているのか……とあなたは納得する。
ゆったりと博物館を見学した後に、あなたは家族とケータリングで軽食を楽しむ。座る椅子の数も十二分にある。テントでは、ヨーヨー釣りや金魚すくいなど子供たちが楽しめる遊びが低価格で提供されている。眼の届くところで子供が遊べるのはありがたい。
一休みしたあなたは、子供を連れてアトラクションへと向かった。どうやら、この公園は「自然と楽しむ公園」をテーマに作り直されているらしい。木々を使ったアスレチックや、巨大迷路などを楽しんでいるあなたは、隣の家族連れに話を聞いてみた。どうやら、この家族は勝山市内の人のようだ。休日を満喫できる場所として、勝山市内だけでなく県内から家族連れが来ているらしい。
子供たちも充分に遊んだことに満足したあなたは、シャトルバスで平泉寺まで戻ることにした。せっかくだから、平泉寺を見てから帰ろう……
さて、こんな長尾山総合公園は可能だろうか。
結論から言えば可能だ。
まずは、長尾山総合公園への車の乗り入れを禁止する。
とは言っても、年中禁止にする必要はない。現状で、パーク&ライドを実施している時期はゴールデンウィーク中と夏休みの一期間、そして秋の特定時期だけである。その時だけで良い。長尾山の車の乗り入れを禁止するのだ。
長尾山総合公園への車の乗り入れを禁止した場合、シャトルバスの運行が不可欠になる。問題はその予算措置だ。
その予算措置のために、駐車場前にてケータリングを配置する。
ケータリングとは、飲食を提供する移動販売車である。
下記の写真は、Genjiroさんのお店。よく市立図書館付近でご商売をされている。ベーグルとカレーが実に美味しい。
このケータリング出店者から出店料をいただく。ケータリング所有者の方々にリサーチしたところ、夏休みやゴールデンウィークであれば1日2万円、3万円の出店料を払ってでも店を出したいとのことだ。
何も難しいことは無い。最低基準を1日2万円と定めて、希望者に入札をかければよいだけのこと。仮に、ゴールデンウィーク、夏休み40日、秋に都合10日と考えれば、年間70日近くは出店が可能となろう。
ならば、20店舗×2万円(最低基準額)×70日で、黙っていても年間に最低でも2800万円が長尾山に入るではないか。
市内のバス会社に問い合わせたところ、バスを1日借り切ってシャトルバスに利用した場合、1日10万円あれば十分だとのこと。
ならば、シャトルバス発着場を
・中心市街地
・越前大仏
・平泉寺
・その他
の4か所に設定して、各発着場に大型バスを3台貼り付ければ1日で120万円。10日で1200万円。年間で20日走らせてもお釣りが来る。
無論、シャトルバス発着場を上記の場所にする理由は、他の観光地を周遊してもらいたいがためである。
付け加えるならば、ケータリング20台に加えて、「勝山市民枠」を5台追加しておくのも面白い。勝山市民がケータリングを出すのであれば、出店料はとらない。そして、ケータリング車の開発に特化した補助金を創設する。「勝山市民枠」でケータリング車を作った市民は、左義長祭りや秋祭り、体育祭、歳の市など様々なイベントへ出ていくだろう。
さらに、長尾山総合公園内に、こんなものがあるとどうだろうか。
ここまで、本格的なモノでなくとも構わない。子供たちが自然と遊ぶことのできる場であれば良いのだ。
ということは、これも可能だろう。
これらは、やり方ひとつでどうとでもなる。
障害は2つ。
ひとつは、「長尾山総合公園をどのようにしたいのか」とのコンセプトがないこと。コンセプトがないから、いつまで経っても同じようなことしかできない。長尾山総合公園には指定管理者がいる。彼らの思うがままのコンセプトで行動させるだけの度量は、今の勝山市にはない。
もうひとつは、「自分たちだけで利益を得たい」と考える人々がいることだ。誰とは明言しないが、勝山市内の人ならばおおよそ検討はつくだろう。彼らは、絶対にケータリング車を招こうなどとは考えない。ならば、その誘客施設だけで観光客を満足させることができるのか……それもできない。
昔から「共存共栄」というではないか。多くの人々で観光客と市内・県内の人々に満足してもらい、結果として皆で儲けようではないか……との発想に立たない限り、長尾山総合公園は今のままであろう。
仮に、第二恐竜博物館が現状のままで長尾山総合公園に来た場合のことを考えたことがあるのだろうか。今以上の渋滞、今以上の混雑、うんざりする人々。「長尾山は混んでるからいかない」という市民。それが我々の望む姿なのか。真剣に考えるべき時期に差し掛かっている。