月下独酌Ⅴ

前勝山市議会議員 松村治門のブログです。 ご意見は、harukado.0501@gmail.com まで。お待ちしております。

恐竜博物館のある長尾山総合公園をプロデュースしよう  《いきなり大勝負をしかけるな!》

 

忙しい方のために、1分でわかる「今回のまとめ」

①「何をするか」も重要ですが、「どのように進めるのか」も重要です。

②行政は、いきなり結論を決めて大勝負をしかけます。これを箱モノ行政と呼びます。「これはダメだ」と失敗に気づいた時には修正も後戻りもできません。

③顧客の反応を見ながら修正を図り「小さく産んで大きく育てる」手法が求められます。これをリーン・スタートアップと言います。

④その手法は、道の駅建設や学校再編問題など様々な場所で役に立ちます。



はじめに

長尾山総合公園のプロデュースについて、《前編》《中編》とお話してきたのですが、《後編》に行く前に、ちょっと1回、休憩してお話したいことがあります。

長尾山総合公園のプロデュースを考えているわけですが、その進め方について。
これまでは、「何をするのか」というお話でしたが、「どのようにするのか」というhow toのお話です。

これはどうしてもお話ししておきたい。


ーどうして?-

実際の結論が全く違うことになりうるからです。

なぜ、実際の結論が違うことになるのか。
それは、いきなり決め打ちをしないからです。
《前編》《中編》で考えてきた内容を、「これで決定!」みたいに決めてかからない。
だから、やっていく過程で内容が変わることは十分にあり得ます。


ーどういうこと?-


決め打ちしても、それはこちら側の都合。お客様の都合に合わなければ、そもそもビジネスとして成り立ちませんから。

よく言うでしょ?「小さく産んで大きく育てる」と。

実用最小限のモデルを作り、お客様に提示して反応を確認しながら、作り上げていった方が良い。その過程で、当初、われわれが目論んでいた方向と全く異なる方向へ進むことは、十分にありうることです。



ーだから、決め打ちをしないということ?-

そうです。

この手法をリーン・スタートアップと言います。




ー初めて聞くのだけれどー

詳しくは後ほど説明しますが、われわれはこの手法を導入しなければなりません。



ーなぜ?-

行政は、いきなり大勝負をしかけるからです。

これまで「箱モノ行政」の弊害が言われ続けてきました。

曰く、「誰も使わないデカい施設に税金を使うのか!」
曰く、「収益を産まない施設は無駄だ!」
曰く、「こんな施設、誰が使うんだ?」
曰く、「こんな施設を延命させるために、なぜ、血税を投入するのだ?」


「箱モノ行政」の特徴は、決め打ちをして、いきなり大勝負をしかけることにあります。その弊害はふたつ。

ひとつは、これは失敗だと分かったときには、後戻りができません。なにしろ箱モノは残っているのですから。もう、どうにもこうにもならない。

ふたつめは、ただでさえ失敗は明らかなのに、行政は過ちを認めませんから、血税を投入して箱モノを延命し続けるという、二重に出血をともなう結果になります。



これを回避するために、リーン・スタートアップを導入すべきなのです。






リーン・スタートアップとはなにか?


リーン・スタートアップを語る前に、スティーブ・ブランクという人について説明しましょう。


ーそれはだれ?-

この人。

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ブランクは、起業家として8つの新規事業立ち上げ(スタートアップ)に参加し、4つを株式上場にまで導きました。
「1000に3つ」と呼ばれるように、IT関連会社の上場率は1%未満です。それに4社も成功したとは、まさに魔術師と呼ぶにふさわしい実績です。

1999年にビジネス界を引退したブランクは、その成功の秘訣を公開しました。
それが、4ステップ17段階64項目からなる「顧客開発」モデルです。




ちなみに、下のアマゾンの画像は新装版。 

アントレプレナーの教科書[新装版]

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さて、その魔術師ブランクの1番弟子と言える人が、エリック・リース。

このエリック・リースは、ブランクの手法を用いて実際に事業を成功に導きます。そして、彼は、ブランクの手法とトヨタの作り上げた「リーン生産方式」を下敷きにして、「ムダのない新規事業立ち上げ」を提唱します。

それがリーン・スタートアップです。



ー具体的にはどういうもの?-


小さく失敗して事業を育てる」方法です。


新たな事業を始めようとする場合、いきなり大勝負をしかけてはいけません。

まずは、実用最小限の製品(MVP)を作り、顧客に売ってみることです。ここで重要なことは、実用に足る最小限の製品であれば良いということ。人はどうしても不完全なものを人目にさらしたくありません。あれもこれもと付け加えたくなりますが、それではダメです。最小限の労力と時間で開発できるものなのです。

そして、それを顧客に売ってみます。そして、芽がないと判断したら、すぐに製品やサービスを改良したり、事業の内容を一新したりして、軌道修正を繰り返します。

傷が浅いうちに進路を変更し、重傷を負って事業そのものが継続できなくなる事態を避けるためですね。




ー具体的な事例はあるの?-

リースの著『リーン・スタートアップ』には、ZAPPOS(ザッポス)の事例があります。


ーZAPPOS(ザッポス)とは?-

世界最大のオンライン靴店です。1999年に創業され、急成長を遂げ、10年後の2009年にAmazonに推定12億ドルで買収されています。

ZAPPOSが一番最初に何を行ったのか。
このあたりは、著書から抜き出しましょう。

ザッポスの創業者、ニック・スインマーンは、ここに行けばどんな靴でも買えるというオンラインのショッピングサイトがないのが残念だった。それまでなかったすばらしい買い物体験ができたらいいなと思ったのだ。そのあと進む道としては、十分な時間をかけてビジョン全体をテストする方向もあった。数多くの倉庫と流通業者、そして大規模な売り上げがあげられる見込みまでがそろったビジョンだ。この進め方は、大失敗したウェブバン(Webvan)やペット・ドット・コム(Pet.com)など、電子商取引のパイオニアがよく採用していた。

スインマーンは実験からスタートすることにした。まず、靴をオンラインで買う顧客がいるという仮説を立てる。そしてその仮説を検証するため、近所の靴屋に頼んで在庫品の写真を撮らせてもらった。撮った写真はウェブに掲載し、それを誰かが勝ってくれたらお店の売値で買うからと言って。

このようにザッポスはごく小さくシンプルな形でスタートした。
  (『リーン・スタートアップ』p81-82)

結果としてこの実験は成功し、ZAPPOSは「顧客は靴をオンラインで購入する」との仮説を、ほぼコストをかけずに実証しました。

始めから立派なウェブサイトを作るのではなく、低コストで簡単なサービスを立ち上げたのです。

普通の起業家ならやりたくなるのです。立派なウェブサイトを作り、靴の在庫を大量に仕入れ、広告を打ち、物流網を構築して、満を持してサービスを提供する。しかし、実際にサービスを始めてみたら、全く売れなかった。

そうではなく、実用最小限の製品(MVP)を顧客に提示し、顧客の反応を見ながら修正を図っていく。その方法が理にかなっています。
リースは、このサイクルを「構築・計測・学習」と呼ぶのですが、重要なことは、この「構築・計測・学習」の試行錯誤のサイクルを、いかに迅速に、しかもどれだけ回し続けることができるのかが重要になるということです。



ーなるほどねー

「構築・計測・学習」のサイクルを回すということは、ある意味で、われわれの思い込みを正していくことです。

われわれの予測はすべて「仮説」すなわち、思い込みに過ぎません。
「〇〇という商品は顧客に受けるだろう」
「▲▲というサービスは、✖✖というターゲットに受けるだろう」
これらは「仮説」に過ぎないのです。

であるならば、その仮説が正しいのか否かを低コストで検証しながら進めていかざるをえません。

そして、いざとなれば事業戦略それ自体も見直す必要があります。




ー戦略も?ー

リースは、それをピポッドと呼びます。バスケットボールでやる、ピポッドと同じ意味です。

ビジョンは滅多なことでは変えません。しかし、それを実現するための戦略は、柔軟に変えて構いません。むしろ、変えていかなくてはなりません。
ただし、両足を一遍に動かせば倒れてしまいます。だから、片足ずつ軸を保ちながら動くのです。だからピポッドなのです。



ー話を聞いていると、新規事業立ち上げのコストを下げる方法みたいだー


それは誤解です。エリック・リースも注意を喚起している点です。

いずれにせよ、新規事業の立ち上げには、大勝負をしかけなければならない時期があります。要は、いきなり大勝負をしかけて大失敗するのか。それとも、リーンスタートアップを回して確証を得た後に大勝負をしかけるのか。
そのタイミングの問題なのです。

そして、行政はいきなり大勝負をしかけたがる。
それが箱モノ行政の弊害でもあります。




なぜリーン・スタートアップを導入するのか? ―「箱モノ行政」は非難される理由―


ーそもそも箱モノ行政とは何なの?―

行政が主導する、施設開発型のまちづくり」と私は定義しています。



ー学校なども箱モノなの?-

全ての箱モノが問題なのではありません。おおよそ、箱モノは4つに分類することができます。

【A】市民生活になくてはならないもの
【B】市民生活にあると便利なもの
【C】市民生活にとって、あってもなくても構わないもの
【D】市民生活にとって、あると困るもの

学校、体育館、図書館といった施設は【A】に含まれるものです。【B】は、勝山市で言えば温泉センター水芭蕉のような施設でしょうね。

【C】から話は難しくなってきます。勝山市内で【C】の代表例は、勝山ニューホテルでしょう。市民生活にとって、あってもなくても構わないものです。なにしろ、市民は勝山ニューホテルに宿泊しませんから。その勝山ニューホテルに、1億円も2億円も改修費をかけるとなると、費用対効果の問題が出てきます。

【D】は……市民の皆さんのご想像にお任せします(苦笑)。建てたはいいが、これは絶対に儲からないだろう。お荷物になるだろう。そんな建物のことです。




ーそれで、箱モノ行政は何がわるいの?ー

箱モノ行政の特徴は、作ることが目的であることに尽きます。「とにかく建物を作る!」これが目的になってしまうと、次の3つの弊害が現れます。

 ①きちんと収支を弾いていない。
 ②住民・企業との連携がとれない。
 ③評価の手順と基準ができていない。

まずは、「①きちんと収支を弾いていない」というところから説明しましょう。

箱モノ行政が批判される理由は、血税をつぎ込むからではありません。
血税をつぎ込んだだけのリターンがないからです。

「行政は金儲けをするところではありませんから」
という理屈を、しばしば行政は主張します。つまり、元々収支をはじくつもりがありません。

血税をつぎ込んだだけのリターンが見込めないということは、施設からの収入が少ないということです。施設の収入が少ないということは、利用者が少ないということです。そして、利用者が少ないということは、そもそも需要がないということを意味します。

もちろん、学校や図書館のように、元々収益を考えていない建物もあります。これはリターンがなくても構わない。しかし、行政の大好きな「中心市街地活性化の起爆となる建物」とか「駅前再開発の導入となる建物」といった類の箱モノには、リターンの考え方が求められます。

10億円の建物を作るとしましょう。この建物は年間想定収入が8000万円。諸経費を差し引くと5000万円の純利益があがるならば、純利回りは5%。したがって、20年で投資費用は回収できる……普通ならこういう計算をするものです。
そして、「それじゃ、この建物は本当に5000万円の純利益を叩き出すのか?」という議論が始まる。需要はあるのかないのか?という話ですね。


この部分の議論、ある意味、最も重要な部分をすっとばす。収支にこだわらないものですから、高かろうが低かろうが問題ではない。行政にとって重要なことは、「建てること」であり、「手持ちの予算と国・県の補助金で建つのか」という点です。

そして、ここが最大の問題点なのですが、収支を弾かないということは、価値の作りこみをしなくなるのです。



ーどういうこと?-

収支をはじかないということは、リターンを真剣に考えていないということです。リターンを真剣に考えるためには、価値の作りこみをしなければなりません。
「顧客にどのような価値を提供し、対価をいただくのか」
その作りこみを、建設前に延々と議論し続けます。

ところが、リターンを真剣に考えないのであれば、価値を作りこむ必要もありません。そして、出来上がった建物は需要がなく、当然にリターンもない。そういう結果に陥りやすいのです。

投資回収もできないのなら、作らなければいいのに……と思っても、行政は止まりません。なぜなら、作ることが目的だからです。




作ることが目的になれば、「まずは作ってから、後は考える」という発想になります。さすがに住民や企業と連携しないわけにもいかないので、審議会を設置することになりますが、そこに集められるメンバーといえば、商工会議所、JA、森林組合、区長会連合会などの代わり映えしない面々。
本当に汗をかいてやる人を中心に置かなければならないのですがね。

だから、実際にテナント運営をしようとする人たちが設計に加われないなどという、馬鹿げた自体も発生するのです。

これが②の弊害です。


そして、「まずは作ってから、後は考える」という手順で進めていくと、建物が出来上がった後は……推して知るべし。事後の評価方法がありません。
本当にこの建物は必要だったのか。血税を投入した価値があったのか。こういった評価をする手順も、手法もありません。
これが③の弊害です。



ーでも、行政はPDCAサイクルを回しているはずだが?-

PDCAサイクル。つまり、P(Plan:計画)⇒D(Do:実行)⇒C(Check:評価)⇒A(Action:改善)のサイクルを回すことですね。

確かに、行政はPDCAサイクルを回します。事業計画書にも「PDCAを回す」と書かれています。

ですがね。基本的なことたずねますけれど、行政が「この施策は間違っていました」と認めた話を聞いたことがあります?



ーあまりないなー

「公務員無謬の原則」というものがありましてね。
「無謬(むびゅう)」とは、「間違いがない」という意味です。



ーそんな馬鹿な話があるの?-


いや、そんなにおかしな話でもありません。例えば、裁判などになったときに警察官の証言は重く扱われます。「警察官無謬の原則」です。

これは、信頼の問題なのです。「公務員・警察官は一般の人とは違うのですよ。間違いが許されない職業です。国民は、あなたがた公務員・警察官をそのように信頼していますので、あなたがたもそれに応えてくださいね」……と、そういう文脈でとらえられるべきものです。

ですから、公務員・警察官が「俺たちは間違えてはいけない。国民の負託に応えなければならないからだ。だから、しっかりと仕事をしなければならない」と用いるのは構いません。
でも、「俺たちは間違えてはいけない。だから、ミスをミスとして認めるわけにはいかない」との論理で使われると、全く逆の方向へ進んでしまいます。


このような状況下では、PDCAサイクルも違う方向で用いられます。

・ある箱モノを計画した(P:計画)
・実際に箱モノを建設した(D:実行)
・ところが予定よりも客がこなかった(C:評価)
・だから、来年度は予算をつけてイベントを行う(A:改善)

ありがちなシナリオです。延々と血税を垂れ流すのは、この類のPDCAサイクルです。

問題は「C:評価」の部分ですね。本当に評価すべきは、計画(P)の中身と、箱モノを建ててしまった(D)のはずなのに、そこを評価することはありません。なぜなら、そこでの過ちを認めてしまっては、公務員無謬の原則に反するからです。そして、建ててしまった以上は、後戻りもできないのです。



ーリーン・スタートアップと全く逆だー

そう。何もかもが全く逆になっている。
だから、リーン・スタートアップを行政にも導入しなければならないのです。





道の駅でリーン・スタートアップを用いてみよう


実際に、道の駅でリーン・スタートアップを実行すると、どのようになるのか。ちょっと考えてみましょう。



ー道の駅かー

そう、道の駅です。
一説には、全国の道の駅の9割は赤字経営だと言われる……あの道の駅です。

9割が赤字経営だとしたら、これはまさに箱モノ行政の典型例と言えるでしょう。リターンそっちのけで作ってしまい、運営してみたら赤字だった。仕方がないので、行政が運営補助を入れて収支をトントンに持っていく。そのパターンです。




ーそれで、道の駅にリーン・スタートアップを導入するならば?-

まずはビジョンを決めなければなりません。

何のために道の駅を作るのかという、ビジョンです。

リーン・スタートアップをする過程で、戦略を変えていくことはあります。でも、ビジョンを変えてはいけない。ビジョンまで変えてしまっては、何のために事業をやっているのかわからなくなります。

そこで、ビジョンを考えてみましょう。
私だったら、ビジョンは「地域経済が潤う」。この1点に絞ります。観光客へのおもてなしとか、それは地域経済が潤うための手段であって目的ではない。



さて、それではビジョンを元にして仮説を立ててみましょう。
「勝山を訪れる観光客は、土産物を買いたいと考えている」

この仮説を検証したければ、何をすれば良いと思いますか?



ー実際に土産物を売ってみれば良いのでは?ー

でしょうね。私もそう考えます。

恐竜博物館の前に、テントをいくつか並べて、そこで勝山の産品を売ってみれば良い。
実際に、それは既に行われています。
売り上げも、そこそこあったみたいで、これは喜ばしいことです。



ーそのテントで売れれば仮説は検証されたということ?-

そう単純なものでもありません。

なぜなら、これだけでは事業の成長性が見えないからです。
「1日1万人の来館者が来る施設の前で、テントを出した。品数は30品目。そこそこ売れた。ならば、もっと大掛かりにしかければ、もっと売れるはずだ」
これはあまりにも粗雑な論理です。

果たして、この事業は将来どうなるのか。本当に成長できるのか、その可能性はあるのか。これが見えなければ、そもそも大勝負を打つことができません。「テントで売れたから、道の駅を作ればもっと売れるはずだ」「だから、道の駅を作れ」というのは、無茶すぎます。



ーならば、どうする?-

もっと常識的なところからスタートしましょう。

例えば、メーカーや小売店の事業計画ならば、販売量に比例して成長していくことがわかります。
「商品の販売で利益を得る」
「その利益をマーケティングと販売促進に再投資する」
「新しい顧客を獲得する」
という成長シナリオがあります。

したがって、ポイントは3つ。
 ・顧客ごとの利益率はどれくらいか。
 ・新規顧客の獲得コストはどれくらいか。
 ・既存顧客の購入リピート率はどれくらいか。
この3点に絞って、仮説を立てていくことになります。


しかし、道の駅でこれは使えません。



ーどうして? 道の駅も小売り店みたいなものだけど?-

道の駅は、一見すると小売店にも見えます。しかし、小売店ではありません。ひょっとすると、楽天やZAPPOSのような売り手と買い手をマッチングさせる存在かもしれません。

なぜなら、単なる小売りだと仮定すると、何を売っても構わなくなりますから。日本全国からモノを仕入れて売れば良い。それならば、道の駅とスーパーマーケットとの何が違いはなくなります。道の駅のビジョンを地域振興としたのであれば、勝山市内、最低近隣自治体の「地のモノ」と「観光客」をマッチングさせる存在が道の駅だと考えるべきでしょう。

そして、道の駅を、楽天のようなマッチングビジネスだと位置づけると、成長モデルは小売店と全く異なり、ネットワーク効果が最重要課題となります。「他よりも、そこで取引したい」と売り手にも買い手にも思ってもらう必要があるからです。
つまり、「あそこへ出品すれば買い手が多くつく、高く売れる」と、売り手に思わせ、「あそこを覗けば、色々なモノが安く買える」と買い手に思わせなければなりません。

このようなマッチングビジネスでは、新たに流入する売り手・買い手の定着率からネットワーク効果の強さを計測し、それを高めていくことが成長モデルの原動力になります。



ただ、これも道の駅では使えません。



ーなぜ?-

道の駅は「観光客を顧客とする」と定めました。観光客は基本的に一見さんだと思った方が良い。一見さん相手にネットワーク効果、すなわち「どのように定着率を高めるのか」を考えても仕方ないでしょう。

そもそも、本当に道の駅を「観光客」と「勝山市内の地のモノ」とのマッチングビジネスだと定義するのであれば、われわれは既にその具体的事例を見ています。


ーそれはなに?-

大野市の朝市。

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つまり、道の駅建設という箱モノすらいらなくなってしまう。




ーそれじゃ、どうすればいいの?-


「地域振興」をビジョンとして掲げ、「観光客に対して」「勝山の地のモノを売って」「売り上げを伸ばしたい」と考えている。

ならば、売り上げとは、そもそも何なのか。そこから考えていきましょう。

(売上)(延べ購入回数)×(1購入当たりの平均購入個数)×(平均単価)

一見さんの観光客を対象とするということは、観光客ひとり当たりの「延べ購入回数」が「1回」であることを意味します。だって考えてみてください。県外から来たお客さんが、わざわざ道の駅の店のためにリピートする。これはちょっと非現実的です。

したがって、延べ購入回数を増やそうと思えば、「リピート率0%の顧客を来店させる」ことを前提に来店者総数を上げていかねばなりません。とにかく人を呼ばねばお話にならない。そういうビジネスを仕掛けることになります。

そこで、仮説を立ててみるわけです。
「仮説:にぎわい創出のイベントをしていれば、観光客は立ち寄る」

この仮説を確かめたければ、何をすれば良いでしょう。




ーそりゃ、イベントするでしょうー

当然にそうなります。

例えば、夏休みの期間は県立恐竜博物館が賑わう期間です。
恐竜博物館とインターチェンジを結ぶ路線のどこかで、「福井の夏の冷たいものフェア」でもやってみましょう。県内から人気のソフトクリームやアイスクリーム、かき氷、ジュース。なんでもいい。とにかく冷たいものをかき集めてフェアを行う。

果たして、観光客は来るでしょうか。もちろん、その結果については、やってみなければわかりません。

そして、その翌週は、今度は同じ場所でトラック市をやってみる。勝山市内の農産物を集めて、観光客が来るか否か。これを確かめてみる。

その次の日には、県内のケータリングカーに集まってもらい、観光客に様々な食を提供しながら反応を見る。

こういった小さなイベントを繰り返しながら、
「仮説:にぎわい創出のイベントをしていれば、観光客は立ち寄る」
との仮説を検証します。

果たして、観光客は来るのだろうか。来たとして総数はどれくらいになるだろうか。イベント来客者数の比率はどうなのだろう。案外と市内客の方が多いのかもしれない。ファミリー層はどのような物産を購入していくのか?その購入者の比率はイベント全体のどの程度に上るのか。そういった点を調査検証していくのです。



ー結果をみて検証するわけだー

そうですね。
「福井の夏の冷たいものフェア」には人が集まったが、農産物のトラック市には集客力がなかった……という結果なら、何がわかるのでしょう。例えば、恐竜博物館を訪れた観光客相手には農産物は売れないという結果に落ち着くのかもしれません。

こればっかりは、やってみないとわからない。
しかし、やらないことには、何もわからない。
そういう類のものです。


ただし、仮説検証のサイクルを回すことでわかることは必ずあります。
予想した事、予想しなかった結果、様々な検証結果を得ることができる。単なる市場調査ではわからなかった、顧客目線でのニーズなどがわかるのですね。

世界最大のオンライン靴店であるZAPPOSのスタート実験については、前述したとおりです。ZAPPOSは、事業を始めるに当たって、ごく小さくシンプルな形でスタートしました。仮説を立て、顧客はどのような反応を見せるのだろうかと検証を続けました。

ZAPPOSが何を学んだのか。それはエリック・リースの著から引用しましょう。

もしザッポスが過去に行われていた市場調査を利用していたら、あるいはあらたに調査を行っていたら、おそらく、顧客が考える顧客の望みを知ろうとしただろう。しかし、ザッポスは提供サービスを構築した。ごくシンプルなものではあったが、提供サービスを構築したからこそ、ザッポスは以下のことを学べたのだ。

【1】顧客の望みについて制度の高いデータが得られた。頭の中で考えただけの質問を発するのではなく、顧客がどう動くのかを観察したからだ。

【2】現実の顧客とやりとりする位置に自らを置き、顧客のニーズを学んだ。たとえば事業計画に価格の引き下げが組み込まれるケースが考えられるが、その場合、価格が引き下げられた製品を顧客はどう考えるのかが問題となる。

【3】顧客が予想外の行動をする場合があり、そのときザッポスはたずねようとも思わなかった情報を入手した。たとえば顧客が来るを返品してきた場合など。

(中略)
スタートはおどろくほど小規模だったが、だからといってザッポスの大きなビジョンが実現しないことにはならない。その証拠としては、2009年にザッポスが電子商取引の巨人、アマゾン・ドット・コムに推定12億ドルで買収された事実があれば十分だろう。
  (『リーン・スタートアップ』p82-83)


道の駅は、観光客に飲食や物販を提供する。ならば、その実用最小限のモデル(MVP)を作ってみて、仮説を検証する。その結果を受けて修正を図る。そして、これを何回も何回も回し続ける。

そして、その中で、道の駅の建設そのものが大きく修正される可能性は大きいでしょう。



ーなぜ?-

道の駅を建設するのは、何のためですか?
もしも、「建物を作らなくても、『地域振興』の目的を図ることができる」のならば、道の駅なんぞ作る必要はないのです。




ーでも、国や県の補助もらってるから、安く建てられるー

ああ、それ言うんですよ。行政職員も言うし、下手すると議員までもが言う。
そういう発想だから、いつまで経っても箱モノ行政はなくならない。

いいですか。建物にはライフサイクルコストがかかります。



ーそれはなに?-

建物が建てられてから、解体廃棄にいたるまで、様々な費用がかかります。光熱水費などの運用費用、保守・管理などの保全費用、修繕費用、一般管理費など多岐にわたります。一般には、建設費のおよそ3~4倍の費用がかかると言われています。

建設費の補助をもらったから安く建てられる……でも、運用費用、保全費用、修繕費用などは勝山市民の税金でまかなわねばなりません。
いわば、自分たちの子供にツケを回すようなものです。


本当に、道の駅が建設すべきものであるのならば、建設しなければなりません。
そこに国・県の補助を得るのであれば、それは本当にありがたい。

だが、道の駅を建設しなくても、別の方法で「道の駅建設の当初の目的」を達成できるのならばば、特段、建設する必要はないのです。


これですね。酷い話になると、「国・県に補助をもらう約束をしてしまったので、もう後戻りはできない」とか、平気で言い始めるんですよ。もう、ここまで来ると、誰のために建設しているのか、何のために建設するのか、建てた後はどうなるのか……といった話はすっとんでしまい、「ひたすら建設に向けてがんばる」という事態が生じます。




まあ、愚痴はこれくらいにしておきましょう。

本題に戻りますが、小さなイベントを繰り返し行うことや、様々な仮説検証を回すことは、二つの大きな利点を産みます。



ーふむ。それはなに?-

ひとつは、思わぬ成果を得る点です。ZAPPOSがテストの結果で思わぬ情報を手に入
れたように、必ず、テストは思わぬ結果をもたらします。

例えば、テストとして観光客向けのトラック市を開催したが、観光客よりも勝山市民の比率が高かった……という結果が出たとしましょう。
道の駅の仮説としては、「観光客向けに、勝山の『地の野菜』は売れない」との結論を導き出せます。

しかし、別の視点から見れば「勝山市人には、勝山の『地の野菜』を安く提供することは、ビジネスになりうる」との結論を導き出すこともできます。全く新しいビジネスの種が見えてきます。



ーふむ、そんなもんかねー

ドラッカーは、その著『イノベーションと企業家精神』で、イノベーションのための7つの機会を列挙しました。新しい知識を活用せよ、人口構造の変化に着目せよ……といった7つの機会の最初に来るのは、「予期せぬ成功」です。

予期せぬ成功ほど、イノベーションの機会となるものはない。これほどリスクが小さく苦労の少ないイノベーションはない。しかるに予期せぬ成功はほとんど無視される。困ったことには存在さえ否定される。
  (P.ドラッカーイノベーションと企業家精神』p18)



そして、第二の利点は、ステークホルダーのネットワークを作ることができる点です。




ステークホルダーとはなに?-

ステークホルダーは、「利害関係人」という意味です。

ここにひとつの企業があるとします。企業は日々活動していますので、様々な人々や団体に影響を及ぼします。

例えば、この企業がメーカーだったとしましょう。資材を買い付ける取引先もステークホルダーですし、顧客である製品の売り先もステークホルダーです。
もちろん、株主もステークホルダーに含まれます。利益をあげるか否かは、株主にとっては重大な関心ごとです。
経営者自身や従業員もステークホルダーですね。他にも、金融機関もステークホルダーでしょうし、地域住民もステークホルダーです。
最も広い意味でこの言葉を使うのであれば、競合相手や税務当局、行政官庁までもステークホルダーに含まれることでしょう。


そして、リーンスタートアップの実験として小さなイベントを繰り返し行うことで、ステークホルダーのネットワークは強化されていきます。

例えば、軽トラ市を開催すれば、そこへ参加する出品者の意識とネットワークは強くなります。ケータリング祭りでも何でも良い。実験イベントを繰り返し行い、検証を加えていくということは、イベント参加者に後日集まってもらい「あれはなぜ売れなかったのだろう」「次はどうすれば良いのだろう」と検討を重ねることです。
ネットワークが強くなるのは当然でしょう。


そして、何よりも、最重要にして最大のステークホルダーが強化されます。




ーそれは、だれ?-

顧客です。顧客こそが、われわれが考えねばならない最重要にして最強のステークホルダーです。この顧客が強化される。



ーなぜ?観光客は一見さんでしょ?-

これは、私の予想ですが、観光客を相手としてリーン・スタートアップの実験を行います。それは小さなイベントを回し続けていくという形で行われますが、その過程で、われわれは新たな顧客に出会うはずです。

その顧客とは、当の勝山市民であり、近隣自治体の方々になるでしょう。
日を置かずに、同じ場所で様々な実験イベントが行われている。毎回、メニューも趣旨も異なる……となると、本筋では観光客向けの実験イベントでありながら、地元の市民が顧客として訪れる可能性が強い。

このようにして、出品者、参加者としてのステークホルダーも、顧客としてのステークホルダーもお互いに強化されていくのです。




ー話を聞いていると、あなたが前々から言っている「成功体験の積み重ね」のようだー

そうですね。

新規事業の立ち上げは、それがどのようなものであろうとも、極めて不確実な状態で、新しい製品やサービスを作り上げます。
不安でたまらないですよ。実際にやる方は。

唯一できることは、一歩一歩前に進んで成功体験を積み重ねるより他にないでしょう?


そう考えると、これまでの道の駅が失敗し続けた理由も明らかではありませんか。

誰だってリスクを背負いたくない。大失敗して「それ見たことか」と後ろ指さされたくない。小さな成功体験でもあれば、事業の成長に期待も出来るでしょうが、それすらない。
そんなとき、人々が「行政がなにかしてくれなければ、先へ進めない」と言うのは、もっともな理屈です。
そして、行政は行政で「それは民間のすべきことですから」とケツをまくる。
そんな無責任体質で、事業がうまくいくことなどありえません。




ちなみに、リーン・スタートアップは、新規事業の立ち上げに有効ですから、学校再編などにも用いることができますよ。


ーいや、いくらなんでも学校再編は。ビジネスじゃないんだからー

ビジネスだから使える。ビジネスじゃないから使えない。そういうものではありません。リーン・スタートアップとは、「新規事業の立ち上げをマネジメントする」ためのものです。

先ほど申し上げたでしょう?「新規事業の立ち上げは、それがどのようなものであろうとも、極めて不確実な状態で、新しい製品やサービスを作り上げます」と。ビジネスであろうとなかろうと、規模が小さかろうと大きかろうと、新規事業の立ち上げは、極めて不確実な状態であり、それをマネジメントしようするのがリーン・スタートアップです。






学校再編問題をリーン・スタートアップで回してみよう

学校再編の根本的な仮説は、「学校を再編すれば、子供たちのためになる」というもの。



ー経費削減とかは、根本的な仮説にならないの?-

もちろん、それを主目的にするのであれば、それが根本仮説になるでしょう。
ただ、経費削減を目的にするのであれば、市民に対して「経費削減が主たる目的です」と説明しなければなりませんね。

もっとも、「経費削減が主たる目的です」と説明されて、それで納得できる市民は少ないでしょうけれど。



ー「学校を再編すれば、子供たちのためになる」とは、ザックリとした仮説だー

そう、その通り。そして、このザックリとした仮説しか存在しないところが、学校再編問題をこじらせる原因なのです。

「学校再編により、大集団ができます。大集団は子供の社会性を育てます」
「学校再編により、大集団ができます。子供の部活動はより活性化します」
という主張は「仮説」です。

「学校再編をせずに、小集団のままでいきます。先生と小集団の関係はより密接になり、子供たちによりよい教育を受けさせることができます」
という主張も「仮説」です。

どちらも仮説にすぎません。そして、学校再編賛成派と反対派はお互いに仮説をぶつけ合って勝負をつけようとする。これでは、いつまで経っても感情的な対立が続くだけです。



ーそれじゃ、どうすればいいの?-

『リーン・スタートアップ』の著者であるエリック・リースの言葉を借りるならば、
・顧客に価値を提供できないものは、すべてムダ。
・それを検証できないようなものも、すべてムダ
ということです。

「学校再編により、大集団ができます。大集団は子供の社会性を育てます」
このような仮説をどのように検証できるのです?検証できないような仮説は、そもそもムダなのです。

「学校再編をせずに、小集団のままでいきます。先生と小集団との関係はより密接になり、子供たちによりよい教育を受けさせることができます」
この仮説は、そもそも学校再編の否定根拠になっていません。なぜなら、再編して大きな学校を作っても、小集団に分けさせることは可能だからです。


つまり、仮説の立て方そのものが誤っているような気がしてなりません。

そもそも、学校再編の対象者、つまりビジネスでいう「顧客」は誰です?



ーそれは、子供でしょうねー

でしょう?ところが、学校再編でもめているところは、大概こんな感じになっています。

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この図を見て、何か気づきませんか?


ー肝心の子供がどこにもいないー

そう、肝心の子供がどこにもいない。サービスを受けるはずの顧客である「子供」がどこにもでてこない。



ーでも、保護者も学校も地域住民も、子供のことを考えて主張しているのでは?-

一見すると、そのように思われます。保護者は「学校再編は子供のためにならない」と主張し、教員も地域住民も「学校再編は子供のためにならない」と主張します。しかし、それは対立を産む結果しかもたらさない。

もう一度、リーン・スタートアップの目的を考えてみましょう。新規事業の立ち上げは、不確定要素が極めて強い。その中で、いきなり大勝負をしかけるのは危険すぎる。ならば、小さなモデルを作り、仮説を検証を繰り返しながら修正を図っていくべきだ……これがリーン・スタートアップの趣旨です。

この根底にあるものは、「ビジョンを達成するためには、本当にその方法しかないのか?他にも有効な手段はあるはずではないのか?」といった考え方です。

道の駅であれば、「地域振興」がビジョンでした。そして、そのビジョンを成し遂げるために「果たして道の駅という手法で成功するのか」を検証するのですね。

学校再編であれば、「子供たちの教育に良いことをする」というビジョンがあります。そして、そのビジョンを成し遂げるために「果たして学校再編という手法で成功するのか」を検証することになります。


ーうんー


大概、教育委員会は「学校を再編すれば、子供たちのためになります」との仮説を提示してきます。

この仮説は検証できないということは、さきほど申し上げたとおりです。

先ほどのリーン・スタートアップの考え方に従えば、
「学校再編以外に、子供のためになることはないのか?」
という仮説が最初に来なければいけないのです。教育委員会は嫌がるでしょうが、この仮説が最初にこなければいけない。


そして、この仮説を掲げたとき、次のような図ができあがります。

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教育委員会(行政)・保護者・教員・地域住民が、手を取り合って「子供たちのために何ができるのか」を考える……そういう図式です。

この図式になったときに、初めて様々な仮説モデルを作ることができます。


ーどんなモデル?-

そうですね………例えば、学校の勉強についていけない子供たちの数を減らそうと考えます。40分の授業を40分で理解できる子は学校の勉強についていける。しかし、40分の授業を60分で理解する子に対しては、20分をどこかでみなければなりません。これは単に個人の能力差の問題であり、善し悪しの問題ではない。速く走る子もいれば足の遅い子もいるように、学習にも能力が現れます。ただそれだけの話です。
ただ、40分の授業を60分かけて理解する子に対するケアを、われわれは図らねばならない。
ならば、ここで仮説を立てるができます。
「40分の授業内容を40分で理解できない子に、更に補習をすれば理解できる」

この仮説を検証するモデルを作るのためには、補習をする時間を組めばいい。



ーでも、先生たちにそんな時間的余裕があるの?-

ないでしょうね。多忙を極める現場で、それだけの余裕はありません。

ならば、次の仮説が出てくるのです。何が、現場の先生の時間を奪っているのだろうか。事務手続きか、書類の作成か、指導準備に充てる時間か。それらを調査の上、事務所類手続きに割く時間が大きいのであれば、それを軽減するための仮説を立てればいい。
教育委員会が、事務軽減を図ることにより、現場に週10時間の余裕ができる」

この仮説をモデル化するためには、教育委員会は実際に事務軽減のための施策をとらなければなりません。学校教育課に人員を充てる、事務執行のやり方を見直す等々の現実の対応をすることになります。



ーそれは、改革というものでは?-

そう、組織の改革ですよ。学校再編問題で教育委員会と保護者・教員・地域とが対立している状態では、決してできないことです。


子供たちのために、関係する人々がネットワークを組んで、組織の在り方やネットワークの組み方から作り直しましょう。それは、極論すれば………一から、全てを作り直しませんか?ということでもあります。

もちろん、法令に定められた組織は崩すわけにはいきません。教育委員会制度が気に入らないと主張する方がいても、法令で定められている以上は設置しなければならない。しかし、運用については、われわれが考えれば良いことです。

PTAのあり方、モンスターペアレントへの対処の仕方、学校の事務軽減、校長の権限強化、様々なことを一から考えて作っていけば良い。そのために「仮説ー検証ー学び」のサイクルはあるのです。




ーでも、これは大騒動だ。手間のかかる作業ですよー

でしょうね。手間のかかる作業です。

でも考えてみてください。
学校再編を進めてみた、しかし、実際にはうまくいかなかった。今となっては後の祭りだ……というような状況を迎えることに比べれば、はるかにマシというものです。


少なくとも、現在の学校再編問題は、教育委員会が保護者・教員・地域住民にたいして「ご理解をいただく」ものです。われわれがしたいのは「理解すること」ではありません。本当に子供たちにのためになる手法なのです。




長尾山総合公園の話に戻りましょう


最後に、長尾山総合公園のプロデュースの話に戻りましょう。

延々と、リーン・スタートアップの手法について語ってきたわけですが、なぜ、これについて語ってきたのか。これには理由があります。


ーなぜ?-

《前編》と《中編》と2回にわたって長尾山総合公園のプロデュースについて語ってきたわけですが、どうやら「長尾山総合公園をアミューズメントパークにする」と理解されている方が少なからずいらっしゃる。


ーだめなの?-

いえ、ダメというわけではないのです。ただ、私が思うのは3点。

①行きつく先(ゴール)として「長尾山総合公園をアミューズメントパークにする」という発想は、十分にありうる。


②ただし、いきなり大勝負をしかけることはない。

③お客様の反応を見ながら、少しずつ微調整、時には大胆な方向転換をしながら、ゴールを目指しましょう。その結果として、「長尾山総合公園はアミューズメントパークにならなかった」ということも、十分にありうる。


リーン・スタートアップの考え方に従うならば、このようになるのです。

私は、このブログの記事「神話としての『雇用創出が若者の定住を産む』という定説」を書き、その中で「顧客は自分の購買動機を説明できない」と繰り返し申しました。

顧客は自分の心の中の「ある言葉」に従って行動する。しかし、その言葉を自分自身で説明しようとしてもできない……ならば、われわれは「顧客はこれを欲している」と決め打ちしてはいけないのです。

修正と学びを繰り返しながら、事業を大きく育てていけばいい。
あくまでも、「長尾山総合公園を〇〇というふうにプロデュースしよう」という主張は、最初のアイデアでしかありません。

重要なことは、
 ①顧客の反応を見ながら修正を図っていく。
 ②いきなり大勝負をしかけない。
 ③だめなら、いつでも撤退できる環境を整えておく
ことなのです。