月下独酌Ⅴ

前勝山市議会議員 松村治門のブログです。 ご意見は、harukado.0501@gmail.com まで。お待ちしております。

中学校再編の答申について考える

公表された学校再編案

7月26日に、勝山市立中学校再編検討委員会が答申を出しました。
その内容は報道などでご存じのとおり、
 ①3校ある現行の中学校を1校に再編する。
 ②1校に再編した新中学校は、県立勝山高校との併設が望ましい。
 ③新中学校と勝山高校は中高連携を進めるべきである。
 ④スクールバスの運行や、新しい中学像はこれから協議されたい。
との内容でした。



学校再編問題に正解は存在しない

当ブログでも再三申し上げているように、学校再編問題に正解は存在しません。
大規模校には大規模校のメリットとデメリットがあります。小規模校には小規模校なりのメリットとデメリットが存在します。
「学校を再編せよ」と主張する人は、小規模校のデメリットと大規模校のメリットだけを主張し、「現行を維持せよ」と主張する人は、小規模校のメリットと大規模校のデメリットだけを声高に叫ぶのみです。

そもそも、これでは議論になるはずがありません。



中途半端な答申

議論になるはずのない「再編vs現行維持」の争いですが、それでも論じる点は多々あるのです。

《図1》をご覧ください。これは、学校再編派も現行維持派も、根っこは同じ点にあることを示したものです。


《図1》再編派と現状維持派の論理構造

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1校に再編派と現状維持派とは、「行動内容」の次元では対立しています。しかし、スタートラインの「目標」の次元では「子供たちのために最も充実した教育環境はなにか」という視点を共有しているのです。


同じスタートを共有しているならば、《図2》のような思考と議論が発生しなければなりません。

《図2》互いの利点を活かした視点

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3校維持派には、「小規模校のメリットを活かした教育」との主張が根底にあります。そこから、更に「中規模校の利点を活かしながら3校を維持することは可能か」との議論がなされて然るべきでしょう。

もちろん、その逆も議論としてなされなければなりません。
「1校に再編するにあたって、小規模校の利点を活用した教育環境を整えることはできるのか?もしもできるならば、どのような手法によるのか?」
といった議論です。

しかし、答申のダイジェストを見る限り、このような議論がなされた形跡はありません。そもそもこのような議論をして一定の結論を導き出せたならば、必ずや、答申内容に記載されたはずです。
(実際に、この種の議論をした人ならばわかりますが、出した結論は目を見張るものになるはずでして、公表したくてたまらなくなるものです)


中途半端な答申と、私が述べるのはこの点にあります。
「なんとかして、1校再編に持ち込みたい」
との思惑がにじみ出過ぎていて、「子供のために」とのスタートラインの共有すらできなくなっています。


ならば、行政の思惑、すなわち、「なぜ学校再編をしなければならないのか」とのスタートラインはどこにあるのでしょうか。



「要は金だろ?金!」

「学校再編しなければいけない理由は、金がないからだろ?」
と私に言った方がいました。

その通りです。勝山市には、3校を維持するだけの体力がありません。

すると、次のようなことを主張する方が出てきます。
「観光に億の金を毎年突っ込むのに、教育に金をまわせないのか?」

それは政策判断と呼ばれる次元の話になります。政策判断とは、「どの分野に重点的に力を入れていくのか」といった方向性の話です。

現在の勝山市は、教育よりも観光に力を入れているのだ。そういうことです。




絶対に実現不可能な中高一貫校

ついでながら言わせてもらうならば、答申にもあったような中高一貫校
これは昨年の終わりから今年の初め辺りにかけて、議会筋から出てきたアイデアですが、はなはだ無理筋だと言わざるをえません。

福井県は、これまで実業系高校の再編を進め、次に普通科高校の再編に着手しようとしています。そうなれば、当然に、奥越地方で普通科高校は1つに再編されることでしょう。具体的には大野高校と勝山高校との合併です。
 「なんとかして勝山高校を残さなければならない」
 「それならば、勝山で中高一貫校をつくればいいんじゃないか?」
 「そうすれば、勝山高校は残る」
と安直に考えたのでしょう。

無理です。

第一、福井県の機嫌を損ねること甚だしい愚策でして、県の方から「どうだい?中高一貫にしないかい?」と声がけされたのならともかく、こちらから中高一貫を先走って出したら、まとまるものもまとまりません。

第二に、仮にここで勝山での中高一貫を認めてしまえば、各地区の行政は一斉にそれを求めることでしょう。
「勝山で認められたのなら、三国中学と三国高校中高一貫にしてくれ」
「勝山で認められたのなら、中央中学と鯖江高校を中高一貫にしてくれ」
おわかりでしょうか。そういった事態を回避するために、県は意地でも勝山の中高一貫を認めることが出来ないのです。

第三に、中高一貫を出したせいで、この再編計画はドツボに陥ることとなりました。
PTAは言いますよ?
中高一貫校が認められるならば、再編には賛成してあげよう」
「それで、福井県のOKは出たの?」
そして、福井県は言うでしょうね。
「地元のOKは出たの?」
「地元のOKが出たのならば、こちらも考えないこともないけどね」
中高一貫校をつくるためには、勝山市民と福井県が同時にGOを出さねばなりません。それは実現不可能なのです。

同時にGOを出すのが不可能となれば、勝山市が採る道はひとつしかありません。
勝山市民相手には無理矢理にでも押し通す」

‥‥暗鬱‥‥






教育行政に対する信頼を取り戻そう

もう半年以上も経ちますが、市内中学校で屋上から飛び降り自殺の未遂事件がありました。すんでのところで先生が飛びついて引きずり降ろしたため、幸いに未遂で終わりましたが、原因は複数の男子生徒によるいじめでした。
中学生たちは私に語りました。
「先生、なんにもわかってないよね」
「本当の悪い奴は見逃してるし」


執拗に女子生徒にセクハラをする男子生徒がいました。授業中に、先生の目を盗みながら隣に座っている女子生徒のスカートの中に手を入れて触り続けるという、それはもはや犯罪行為ではないのか?と言いたくなる行為ですが、声を上げようとすると「黙ってまえを向け」と脅す。恐怖のあまり、おとなしい女子生徒は声もあげられなかったそうです。長期にわたり、そのセクハラ行為は続けられました。
「おいおい、お前ら先生に言わなかったのかよ」
「黙ってるのなら、お前らも同罪だぞ」
と言った私に向かって
「何度言っても先生はまともにとりあげてくれなかった」


保健室登校をしている女の子がいます。
「教室に行けなくても、学校へ行くのは良いことだ」
「頑張ってるね」
と言う私にむかって
「先生たちは問題起こしてくれなければそれでいいの」
「勉強しなくても学校さえ来てくれればいいんだから」
「だから1日中トランプしてるだけ」
と投げやりに答えました。



話を膨らますわけでもなく、誇張でもなく、上記の話はすべて事実です。
私が直接見聞きしたものばかりであり、困ったことに、これらは氷山の一角なのです。


‥‥なにかがおかしい。


表面上、学校はうまくいっているように見えます。しかし、その皮を一枚めくったときに何が出てくるのか。私にも想像できません。

先生たちが悪意をもってやっているわけではありません。子供たちにも悪気はありません。ならば、なぜ上記のような事態が発生するのでしょうか。


‥‥なにかがおかしい、としか言いようがありません。しかし、解決するためには、真正面からそこに向き合うしかないのです。






今回の学校再編を行政がゴリ押しして進めるならば、勝山市民の教育行政に対する信頼は地に墜ちると考えています。
「行政は無理やり再編した」
教育委員会は、市民の言う事をなにも聞いてくれなかった」
との反発・鬱屈は、必ずや教育現場に方向性を変えて流れていきます。
「どうせ学校は隠すんだろ?」
「どうせ先生たちは教育委員会が怖くて黙るんだろ?」

またしても被害を喰らうのは現場です。

そうなってはいけません。
学校の再編問題よりも、我々がやらねばならぬことは明白です。まずは、問題と正面から向き合い、解決策に取り組むことです。



不登校になった中学生の保護者が、子息が中学校を卒業するときに私に言いました。
「やっとこれで地獄から解放される」
悲しい話です。夢と希望をもって入学したはずの子供たちが、なぜ地獄を味あわねばならないのか。誰も落ちたいと願ったわけでもなく、誰も落とそうと狙ったわけでもないのに。


まずは教育行政に対する信頼を回復しましょうよ。

再編問題なんて、その次でいいじゃありませんか。