月下独酌Ⅴ

前勝山市議会議員 松村治門のブログです。 ご意見は、harukado.0501@gmail.com まで。お待ちしております。

市議会議員が政策・ビジョンを実現できる市政とは?

はじめに

「今月から始まる勝山市議会議員選挙で、政策やビジョンを掲げる候補者はいるのでしょうか」
との質問をいただきました。

実際に、「〇〇がしたいから立候補するのです」と仰る方もいますが、個々の立候補者の政策やビジョンについて論評することは差し控えましょう。

今回は、議員という職の持つ可能性と、それを活かすしくみについて、少々考えてみたいのです。



市議会議員は政策・ビジョンを実現できるのか?

市議会議員の主たる役割は、市政、特に行政のチェック機関だと言われます。
これに加え、これからの地方分権の時代には、議員にはプランナーとしての役割が求められます。政策を企画・立案する仕事です。



新規事業を立ち上げるために不可欠なものは、スタートアップの人材です。
企画し、必要な人材に声をかけて集め、関係諸団体を糾合して予算を獲得し、そして実現する。このスタートアップの人材に最も適しているのは、地方自治体の議員です。

まず、議員は、様々な情報や団体にアクセスすることが出来ます。

勝山市に問い合わせれば、よほどの個人情報でない限り、情報を取得することが出来ます。これは市政の現状分析をし、課題を浮き彫りにする作業に欠かせません。

政策を形にする際には、学術機関や民間企業、中央官庁との協議も求められますが、この際にも議員の立場は有利にはたらきます。

私の場合で申せば、新しい公共交通システムの構築に東京大学の知恵を借りることができたのも、京都大学福井大学と教育問題で関係を深めることが出来たのも議員としての立場を手掛かりにしたからでした。中央官庁へ行き、個別に突っ込んだ話ができたのも議員としての立場があったからです。


加えて、議員は、ある程度の社会的信用性を持っています。
この場合の「社会的信用性」とは、公共の福祉を実現するための職としての議員。これに対する社会的信用性と申し上げて良いでしょう。

再度、私の事例を出すならば、新交通システムの実現のために、区長連合会会長や民間事業者や福祉関係団体などにお声がけをし、研究会を立ち上げたのですが、これは議員という職業が持つ社会的信用性を基礎としていました。


加えて、議員は利害関係を持たないので中立を保つことが出来ます。
公共の問題を解決するために、民間事業者の参入を求めることは当然です。そして、参入した民間事業者が問題解決により利益を得ることは当然でしょう。ビジネスとして問題を解決する、市民は課題が解決される。それがWIN-WINの関係です。
だからこそ、そこに利害関係を持たない議員が必要とされます。「私は、皆さんをwin-winにするために報酬をいただいているのです」と中立を保つ存在が議員です。
(少なくとも、私はこれまで報酬外にいただいたことはありません)


そして、ここが重要な点ですが、議員には上司がいません。もちろん議会には議長がいますが、議会の統率をするのが議長の役割であり、議員個人の政治活動に干渉することはありません。
したがって、議員はスピーディーに動くことが可能なのです。


私たちがそこに気づかないだけで、本来、議員の果たすべき役割と可能性は、無尽蔵です。

個々の市議会議員が
 「俺は産業振興に興味がある」
 「私はまちなか活性化をやりたい」
 「私は教育問題に取り組む」
と、自らが動き始め、スタッフを集めて政策を練り上げ、賛同してくれる企業や団体を得て、様々な人々を巻き込み社会運動として盛り上げ、実現化する。
もしも、そんな勝山になったならば、市政は見違えるように活性化すると思いませんか?
もしも、そんな勝山になったならば、意欲溢れる人材が市議会議員選挙に立候補すると思いませんか?





市議会議員が政策・ビジョンを実現できる制度をつくる方法

議員の可能性が無尽蔵ならば、なぜ、その可能性に蓋が閉じられたままなのでしょう。

理由のひとつは、「そもそも、やり方がわからない」点にあります。
私の場合は試行錯誤を繰り返しながら政策化の方法を学んでいきましたが、この試行錯誤をする人は稀です。

(だから、おそらく他の議員さんたちは私が何をやっているのか、さっぱり理解できなかったことでしょう。もっとも。説明しなかった私にも非があるのかもしれませんが)



二つ目の理由は、「政策をつくったところで、市に採用されなければ意味がない」点があります。
当然ですが、議員が政策化しても勝山市が採用しなければ、その政策は実現化されません。いかに素晴らしい政策であっても、実現されなければ「絵にかいた餅」です。

ここは、ひとつ考えどころで、そういった「実現化されなかった政策をプールし、公開する場」をつくるべきでしょう。

議員が作った政策を勝山市のホームページで公開し、その政策の内容を広く公開すれば良いではありませんか。そうすれば、市民は「なぜあの政策を採用しないのか」と勝山市に問うことができます。

ただし、これは議員にとっても諸刃の剣です。政策を公開するからには、単なる思い付きのものでは市民の嘲笑を受けるだけ。結果として、練りに練った政策が公開されることでしょう。それは市政そのもののレベルアップをもたらします。


三つ目の理由は、「行政スタッフが首長の方しか向かない状況では、政策をつくれない」状況があるからです。

この状況を打破するためには、2つのものが必要です。

ひとつは、職員のマインドセットを変えること。

現状のマインドは、次のような図で表わすことができます。

《図1:現状のマインド》

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「行政職員は、市長を上司に仰ぎ、市民からの要望を聞いてそれを実現する」とのマインドです。

片や、向こうには市議会議員がいます。市議会議員も、選挙という民意で選ばれた存在であり、市民からの要望を聞く存在です。

しかし、行政職員が市長の方向を向く限り、市議会議員は「面倒くさい存在」でもあるのです。市長と議員が対立する状況下では、行政職員は市長の肩を持たざるを得ませんから。


このマインドは、次のように変えるべきでしょう。

《図2:あるべきマインド》

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そもそも、市長も行政職員も市議会議員も、すべて公職であり、勝山市民に仕える公僕です。解決すべき問題をともに手を取り合って解決する立場なのです。


上記のようなマインドに変えた後に、もうひとつ変えなければならない問題があります。

それは、行政職員に時間的余裕と自由に動く機会を与えること。

実際に、行政職員の上司は市長です。これを揺るがせにすることはできません。

しかし、私が政策「行政2.0」で
 ①業務の徹底的な見直しによる、自由時間の確保
 ②業務時間内における、職員が自由に動くことのできる権限
を提言しました。

有体に言えば、「職員は、勤務時間内に一定の時間を使って『自分が勝山のために最も良い』と思うことをせよ」との内容です。

この自由な時間を、行政職員は議員と使うこともできるのです。

こんな事例を考えてみましょう。

意欲溢れる議員が、あるとき
「私は、教育問題を変えるために〇〇という政策をつくりたい」
と公表します。職員は、この政策に興味を持ち、議員と話し合った結果、実現すれば勝山の教育が劇的に良くなるだろうとの確信を持ちます。
「議員、私にも手伝わせてください」
と、この職員は勤務時間内の自由時間を用いて、議員とともに政策実現に向かうことでしょう。


行政職員も議員もない。
勝山の市民が良くなるためならば、皆で一緒にやればいいじゃないか。

このマインドセットの変革と仕組みの変化は、ある意味、首長の判断にかかっていると言えるでしょう。






【補 足】
なぜ、誰もが理解できる話なのに、「議員の可能性を伸ばす政策」が打てないのか。
勘のよろしい方は、既にお気づきでしょう。
その答えは、「政治家の本能に反するから」に他なりません。

組織のトップに立つ者が長期にわたる実権を握りたければ、「ナンバー2を叩け」との真理に従うことになります。自分を脅かす者、自分を貶める可能性のある者を叩き潰すことにより、トップは長期にわたって権力の座に留まることができます。

議員に伸び伸びと仕事をしてもらえば、市政は活性化するに違いない。
その程度のことは、政治の世界に身を置いたものならば、すぐに理解できます。
しかし、政治家の本能がそれを許しません。
伸び伸びと仕事をして実績を積み重ねていった議員は、かならず自分の敵に回るからです。
いわば、議員に伸び伸びと仕事をしてもらうことは、自らの敵を自らの手で作り出す作業に他なりません。

だから、どの自治体の首長も、この施策をとらないのです。

その結果、何が生じているのでしょうか。
政策立案能力を伸ばすことのできない議員。
上司の顔色だけを見続ける理事者。
活力を失っていく市民。

情けなくも残念なことです。