月下独酌Ⅴ

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【読書】 日本史の謎は「地形」で解ける。

 

何気なく本屋によって、面白そうだなと思った本がアタリだったときの興奮はAmazonでは味わえないものだが、久しぶりにそれを味わった。

 

日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】 (PHP文庫)

日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】 (PHP文庫)

 

 

時折、気が向いた時に、役所に自転車に乗って行くことがある。

おおむね1時間強のサイクリングになるのだが、その際に、決して新道を通ることはない。確かに新しく作られた道は真っ直ぐで目的地までの最短距離を進むことになるのだが、自転車で行くにはアップダウンがありすぎる。車で行くには最適なのだが、自転車で進むには辛い。したがって、旧道を走ることになる。等高線に沿ってできるだけ高低差をつけずにひかれている旧道は、確かに距離こそ伸びるものの歩いたり自転車で行くには最適なのだ。

 

古代の人間には理性的行動はできない。呪術的、宗教的なルールによって動く未開の野蛮人である……との思い込みは正しくない。彼らの倫理が宗教的、呪術的であったかもしれないが、その行動においては極めて合理的である。

現代の人間にとっての合理的行動が「車に乗って真っ直ぐな道を進む」ことにあるのならば、古代人の合理的行動は「等高線にそってなだらかな道を進む」ことにあったかもしれないのだから。

 

 

 著者は元建設相の官僚である。土木工学の専門家として、歴史の様々な謎を「地形」の分野から解き明かしている。現代に至るまで、人々の行動を決するものは自然であった。すなわち、「地形」である。

 

もちろん、すべての謎が「地形」だけで解けるわけではない。ただ、いくつかの謎が「われわれ現代人の基準で考えるがゆえに解が見えてこない」と指摘しているのだ。

 

私が興味をひかれたのは、「なぜ日本の旗は日の丸、すなわち太陽をモチーフにしたのか」という章だ。

世界的に見れば、太陽をモチーフにした国旗は少なく、むしろ月や星をテーマとする国旗の方が多いと書中にある。言われてみればそのとおりだが、日本人にとって太陽とは万物を生み出す根源であり、天照大神に代表される神格化された存在でもある。

しかし、世界的には月や星の方がぬくもりと優しさを表現するのだと。

 

その理由について詳細を述べることは避けるが、昔から存在する「なぜアフリカは発展しなかったのか」という疑問に対するひとつの回答がここにあると思った。

現在の中国がアフリカに進出していることからもわかるように、アフリカはエネルギー源の宝庫であった。石油、石炭、鉄、ダイヤモンド等々およそ人の使うエネルギーでアフリカにないものはない。しかし、そのアフリカが最も近代化が遅れているのはなぜか。その回答は様々に挙げられている。曰く、植民地時代が長かったからだ。曰く、教育が不全だからだ。
そして、本書にある回答は、そこに大きな波紋を呼ぶものなのだろう。

 

「なぜ江戸は世界一の大都市になったのか」を解説した章もユニークだ。都市を形成するにはエネルギー源を確保しなければならない。そのエネルギー源が枯渇すると、古来から遷都が行われてきたという著者の主張はもっともだ。

ならば、なぜ家康は江戸に幕府を開いたのか。その巨大なエネルギー源を確保する方法こそが幕藩体制の肝になったこと。そして、そのエネルギーの集積方法が確立したことによって江戸は当時世界一の大都市になったことが説明されている。

その余波として、幕末においては日本の森林は枯渇の危機に追いやられていたことも。

 

 

最終章の「ピラミッドはなぜ建設されたのか」も圧巻だ。

なるほど、土木工学の視点から眺めるとそのような説明が可能になるのかと興奮して読み切った。