月下独酌Ⅴ

前勝山市議会議員 松村治門のブログです。 ご意見は、harukado.0501@gmail.com まで。お待ちしております。

民は依らしむべし、知らしむべからず   -観光まちづくり会社とはなにものかー

 

 

はじめに

まちを歩いていると、様々な方とお話をする機会を得ます。他愛もない話から、苦情や要望まで内容は様々です。
ただ、最近、苦情や要望の中に出てくる話題として「観光まちづくり会社」が目立つようになりました。
「何をやっているのかわからない」くらいなら受け流すだけなのですが、「商売のジャマばかりされている」といった内容になってくると、話は剣呑になってきます。


かと思うと、こんな話も耳にします。

まちづくり会社のスタッフが観光ボランティアガイドの皆さんを集めて、開口一番
「これからは観光ボランティアを無料でやるのは止めてください」
「ガイドは有料制にしてください」
「ガイド1回につきひとり500円を観光客からとってください」
「なお、その500円のうち200円はまちづくり会社に納めてください」
「ただし、観光客からお金をとる交渉は、ガイドの皆さんで行ってください」
と言い放ち、ボランティアガイドの皆さんを激怒させて、すごすごと引き下がった。

そんな話を聞くと、
「……気の毒に……」
と同情せざるを得ません。

誰に同情してるのか?
まちづくり会社の現場スタッフに。

役所は、俗にいう「手足を縛って水の中に放り込む」ことを平然とやります。そのために、現場スタッフは上記のような窮余の策を講じざるを得なくなります。

そもそも、観光まちづくり会社が「会社」を名乗るからには、会社経営をしなければなりません。そして、会社経営には「経営の帯」と呼ばれる固定収入が必要です。ところが、役所が絡むと縛りがきつすぎて自由な経営ができないために、いつまでたっても経営の帯が定まりません。

あれもダメ、これもダメ……ダメ出しする役所は気楽なものですが、追い込まれるのは常に現場スタッフ。観光ボランティアを激怒させたのも、そんな提案を出さざるを得ないまでに追い込まれたからでしょう。


気の毒に……でも、「観光まちづくり会社ってなに?」「何やってるのかさっぱりわからない」という声があるのも事実です。



先月のこと、市内全戸に不思議な冊子が配られました。
『イントロ』と名づけられたオールカラー42ページの冊子は「勝山の企業紹介」

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なぜ「不思議な冊子」なのかと申しますと、勝山市民に対して市内企業の宣伝をしたところで意味がないからです。

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「いや、別に紹介されなくても知ってるし……」
「紹介するなら、なぜ、もっと多くの企業を紹介しないの?」
「ここに乗せる/載せないの基準は、だれが決めたの?」
とツッコミどころ満点の冊子でした。

背を見れば、発行は観光まちづくり会社

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そういえば、花月楼のパンフレット(まちづくり会社発行)を何種類も持参して
「こんなものに税金を投入しているのか」
と私に延々と怒りをぶちまけた市民の方もいらっしゃいました。
(とんだとばっちりですw)


現場スタッフは手足を縛られて動かざるをえない。にもかかわらず、活動すれば「何をやってるのかわからない」「見えない」「商売のジャマだ」「ピンハネ屋」「税金の無駄遣い」と揶揄される。

いったい、観光まちづくり会社とは何なのでしょう。

そんな疑問を抱く市民も多いことでしょう。
では、疑問に思った市民は、どこから調べれば良いのでしょう。






観光まちづくり会社の秘密

結論から申し上げましょう。

市民にはわかりません

実際に探した私が申し上げます。無理です。絶対にわかりません。

まず、市民の皆さんが予算を調べようとしても市立図書館には予算書も決算書も置いてありません。信じられない話ですが、図書館職員といっしょに調べてもありませんでした。

ならば、市のホームページを見れば予算書があるはず。
勝山市 平成30年度予算」
と検索してみれば、次の画面が出てくるはずです。

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とにかく市のホームページは使い勝手が悪いので困ります。

興味のある方は、サイト内検索で
「勝山の姿(勝山市統計集)」

「インフルエンザ 補助金
といったキーワードで検索してみてください。
「お探しのページを見つけることができませんでした」のオンパレードです。




めげずに辿り着いた「財政課のページ」

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実は、ここにも「まちづくり会社の秘密」は書かれていません。


なぜならば、「まちづくり会社の秘密」は平成28年4月の臨時議会で定められたものでして、財政課のページからはたどり着けないのです。

ならば、どこにあるのか。

思わぬことに、勝山市議会のページから行くことができました。忘れ去られた感のある議会ページでしたが、それゆえにひっそりと残っていたようです。


それが下記の予算書。平成28年4月臨時議会で可決された「まちづくり会社への出資」の予算です。
勝山市は240万円をまちづくり会社の資本金へ出資しました。

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資本金1000万円のまちづくり会社へ240万円を出資する。この240万という数字こそが「まちづくり会社の秘密」の核心部分です。

どういうことか。

これを説明するには、まずは地方自治法から話を始めましょう。


地方自治法は、第243条の3で次の趣旨のことを定めています。
「市長は、第三セクターの会社の財務状況を毎年議会に報告しなければならない」

具体的には、どのような第三セクターを指すのでしょうか。それは地方自治法施行令第152条に定められています。
地方公共団体が4分の1以上を出資する株式会社」

おわかりですね。
仮に勝山市が250万円を出資してしまうと、資本金1000万円の4分の1に達してしまう。そうなると毎年の財務状況を勝山市議会に報告しなければなりません。出資金240万円の意味は
「観光まちづくり会社の財務状況は、市議会に報告しない」
という意思表示の表れなのです。

市議会に報告する必要がなければ、後はブラックボックス化するだけです。
「確かに、勝山市は観光まちづくり会社に出資しています」
「しかし、観光まちづくり会社は民間企業です」
「民間企業に財務状況を報告する義務はありません。あなた方は税務署ですか?」
との理由を盾に、観光まちづくり会社はその財務状況の公開を拒むことができます。

こうなってしまっては、財務状況を市民が知ることは不可能です。

冒頭で申し上げたように、市民には知るすべがないのです。



一例を挙げましょう。

まだ私が市議会議員であった自分の話です。

花月楼を改装するために県補助金や市の予算を投じて、1億円余りの工事を行うことが決まりました。建物の所有権が観光まちづくり会社へと移っていたため、工事の発注者は観光まちづくり会社でした。

そこで、工事発注を何としても一般競争入札で行うことを主張しました。民間企業が発注するのならば何も言うことはありません。どこの企業に発注しようが自由でしょう。しかし、観光まちづくり会社勝山市が株主です。いわば公金で運営されている第三セクターなのですから透明性が担保されていなければなりません。

「市の発注する工事と同じ基準で一般競争入札を行わなければならない」
予算委員会で主張した私に対して、副市長は明確に答弁しました。
「そのように取り計らいます」

市議会議員を辞め。選挙に身を投じた後に
「おい、松村さん。いつの間にか花月楼の工事が始まっとるぞ」
との声が届きました。
一般競争入札どころか、市内の業者が「え?いつ入札したの?」と驚くタイミングで、秘密裏に入札は行われていました。

「おいおい、どういう経過でやったの?」
「どの業者が札を入れたの?」
「いくらで落札したのよ」
そんな疑問に答える義務は、勝山市にもまちづくり会社にもありません。

なぜなら、市議会に報告する義務がないからです。
報告する義務がなければ、報告する必要がありません(当たり前)。
報告する必要がなければ、報告することもありません(当たり前)。
報告しなければ、突っ込まれることもありません(当たり前)。
突っ込まれることがなければ……後はご想像どおりです。


予算書に記載されていた240万円とは、そういった意味です。
観光まちづくり会社に、今も、そういったきな臭い話がつきまとって離れないのは残念なことです。






赤字前提の会社経営

市民の目に触れないところで、何をやっているのかわからない。そんな観光まちづくり会社の事業ですが、根っこは明らかです。

赤字垂れ流しで行う元本保証の観光事業

なぜ、そう言えるのか。

国土交通省の資料を見てみましょう。これは勝山市国土交通省に日本版DMOを申請した際の資料です。

ここに、観光まちづくり会社の予想収支が掲載されています。詳しくは資料を見ていただければお判りになりますが、特筆すべきは収益予想の杜撰さです。

まずは、支出の部から見ていきましょう。

【支出の部】
平成30年度  1億2538万5千円 (内訳 原価4318万 一般管理費3617万)
平成31年度  1億3867万1千円 (内訳 原価7916万 一般管理費5950万)
平成32年度  1億3951万1千円 (内訳 原価7971万 一般管理費5979万)
平成33年度  1億3976万1千円 (内訳 原価7996万 一般管理費5979万)

さて、これらの支出に対して収入はどうなっているのでしょうか。

平成30年度を見ると

総収入 1億3759万6千円
  【内訳】
    収益事業収入  9059万6千円
             花月楼    256万円
             長尾山  8803万6千円

    公益事業収入  4700万円
             受託業務    4050万円
             観光情報発信   50万円
             ジオツーリズム   600万円
となっています。

ここで見慣れない単語が出てきました。「公益事業収入」の中の「受託業務」とは何でしょうか。

簡単に申すならば、「勝山市が観光まちづくり会社に委託する業務」ということです。
観光パンフレットの発行や、もろもろの業務を観光まちづくり会社へ委託することを当て込んで収支予想は立てられています。

平成30年度だけのことならば、まだ我慢も出来ますが、そうではありません。

受託業務の見込み
 平成30年度 4050万円
 平成31年度 4500万円
 平成32年度 4500万円
 平成33年度 4500万円

今も、そしてこれからも勝山市は赤字を補填し続けなければなりません。


観光まちづくり会社の収支予想から見えてくるのは、
「赤字になったら勝山市が補填してね」
という態度です。

要は、赤字を垂れ流すことを前提に観光事業をする。しかも、その赤字は勝山市が補填するので元本割れを起こすことは無い……という、とてもビジネスとは言えない代物だったのです。



さて……仮に市内の建設業者がこんなことを言い始めたらどう思いますか?
「平成30年度は、市から4050万円の発注が弊社に出る予定です」
「それだけではありません」
「平成33年まで毎年4500万円の発注が確実に市から見込めますので、経営は安泰です」

そんな建設業者がいたならば、お目にかかりたいものです。
ならば、なぜ観光まちづくり会社にだけ許されるのでしょうか。

役所のとある部長は、こう嘯いているそうです。
「公益目的の団体だから発注できる」

それは通らない理屈というもの。

「財務状況を出しなさい」と言われれば「市の出資があるとは言え、観光まちづくり会社は私企業ですので、財務状況を出すわけにはいきません」と断っておきながら、市の事業を発注する段になれば「観光まちづくり会社は、市が出資している公益目的の団体ですので」と独占させる。

そんな身勝手な理屈が通るのは、役所周辺だけです。
だから、市内業者や市民は怒っているのです。




観光まちづくり会社の経営が行き詰まる理由

観光まちづくり会社の経営は、早晩行き詰るだろうと考えています。

赤字垂れ流しを勝山市がケツ拭きする。この図式で出発する限り、行き詰らざるを得ないのですね。

例えば、来年の夏は長雨だったとしましょう。長雨ともなれば例年と比べて観光客の入込は減少します。収入減になれば、赤字が膨らみます。
さて、勝山市がケツ拭きをしようとすれば、新規事業を予算化しなければなりません。ケツ拭きをするにも「ほい、現金」と現金を渡すわけにはいかないのです。あくまでも、新規事業を予算化してその事業を観光まちづくり会社に請け負わせる型式でなければ違法性すら帯びてしまいます。

役所としたら、それは面倒くさい。新規事業ともなれば議会に説明しなければなりませんし、根回しも必要です。第一、懐が豊かでない勝山市の財政でホイホイと新規事業を立ち上げられるわけもありません。

そこで役所は机の上から言うのです。
「赤字を減らせ」

ところが、ビジネスなんて「10撃って1当たればラッキー」の世界です。延々と失敗を重ねながら少しずつ輪郭を表してくるのがビジネス。

だから、「10撃って9失敗しても良い」ように、企業は利潤を内部に留保して万が一に備えます。ところが観光まちづくり会社には「9失敗してもよい」だけの内部留保がありません。赤字前提でケツ拭きを勝山市にさせている限り、「赤字を補填してもらって、ようやくトントン」になるだけで、新たなチャレンジ・リトライを可能にさせるだけの内部留保を積めないのですね。

おわかりでしょうか。

観光まちづくり会社のモデルは、スタートラインからビジネスの根本に反しているのです。


新しい事業にチャレンジしたいと現場が願っても、役所がウンと言わない。顔を見れば「赤字を減らせ」の一辺倒。現場はどんどんやる気をなくしていって、ルーチンワークをこなすだけ。


店を開けば、初年度こそ珍しさゆえに人は来たものの、あっという間に飽きられて閑古鳥。「お前たちの努力が足りないからだ」と上からは責められ、「それなら顧客開拓のために予算をつけてくださいよ」と言っても、雀の涙程度の予算をつけて「後はお前たちの営業努力だ」と放り出される。

完全な負の悪循環です。

冒頭申しあげた「現場スタッフの手足を縛っておいて水の中へ放り込む」とは、この負の悪循環そのものであり、観光まちづくり会社の経営は早晩行き詰るだろうと考える理由です。



民は依らしむべし、知らしむべからず

議員バッジを外して市民目線で見ると、市政は本当に見えずらいものです。とにかくわからない。

この前、有権者巡りをしている中で、半ば冗談でこんなことを言われました。
「松村さん。あなたが市長になったとしても、できることは大野市との合併くらいや」
市政が見えずらいがゆえに、人々は不安に駆られます。

勝山市の財政が厳しい……とは薄々感じてはいます。しかし、どの程度厳しいのかは、市民には皆目見当もつきません。

皆さんはご存知でしょうか。
勝山市にある公共建造物の維持費が、毎年、どの程度の金額であるのか。
勝山市が地代として支払っている金額は、毎年、どの程度なのか。
「観光、観光」と掛け声は勇ましいが、いくらの観光予算を投入して、どの程度のリターンが生じているのか。




12月定例会の市長招集あいさつで、来年度の予算編成ではマイナス5%シーリングで臨む方針が出されました。
マイナス5%シーリングとは、本年度の事業予算の規模から5%削減することを意味します。教育、福祉、土木、消防、民生など様々な予算の規模を5%削減する。

ふむ……ちなみに市長はご存じなのだろうか。北部中学校の理科室が雨漏りしていることを。防水工事をしたくても「予算がない」の1点張りでバケツが置かれていることを。
市営住宅の住民が「壁が壊れて」何とかして欲しいとお願いしても「予算がない」の1点張りで相手にしてくれないことを。

おそらく観光予算は削られないのでしょう。5%シーリングの網の目をくぐって、観光費はつけられ延々と事業予算は継続されるに違いありません。

しかし、勘違いしないでいただきたい。勝山市が観光まちづくり会社のケツ拭きをやっているのではありません。勝山市民が、その税金を使って観光まちづくり会社のケツ拭きを強要されているのです。そして、肝心の市民はケツ拭きを強要されていることすら知らされず、ゆえに市民は気づくこともありません。

そして、いよいよ道の駅の建設が始まろうとしています。

道の駅の建設は、勝山市が行います。国・県の補助金を得て。
そして、観光まちづくり会社が運営をする。これも決まっています。

国や県の補助金を得ることは、良い面と悪い面を持ちます。
良い面は、もちろん市の負担が軽くなること。
悪い面は、目的外使用ができなくなること。
国の補助金をもらってしまった以上、目的外の使用はできません。道の駅としては使えなかったけれど、それじゃ、建物を別の用途で使おうか……とはいかないのです。

すべては観光まちづくり会社にかかっています。
その観光まちづくり会社の財務は、市民の目の届かないところにあります。

「民は依らしむべし、知らしむべからず」

市民が真の実情を知らされるのは、ドン詰まりになってにっちもさっちも行かなくなったときなのでしょう。そして、その時には事態は最悪の状態になっていることは容易に想像がつきます。

その時が来ないことを祈るばかりです。